前回のあらすじ
いざ錬金術師の館に挑む三人。
中では奇妙なことがおこり始めて。
誰もいないのに開け閉めされる扉。自然にともる明かり。
そして今度は、私たちを待ち構えるかのように用意されていたお茶とお茶菓子。
なんだかわかりませんが、とにかく何かしらの怪しい事態が起きている。
そう悟った瞬間、私は剣を抜いていました。トルンペートもまた短刀を構えています。
何がどこから来るのかわからないけれど、とにかく警戒を、と思った次の瞬間、ごうと恐ろしいほどの突風が吹いたかと思うと、私たちの軽い体はいともたやすく吹き飛ばされ、部屋からはじき出されてしまいました。
これは抗おうとしても全くかなわないほどの猛風で、私たちは瞬く間に転がされ、突き飛ばされ、気づけば玄関扉から追い出され、そして目の前で扉がばたんとしまったのでした。
「あいたたた……」
「とんでもない風だったわね……リリオ、ウルウ、大丈夫?」
「私は大丈夫です。ウルウ? ウルウは?」
「あれ、ウルウ?」
私たちは慌ててあたりを見回しましたが、そこにはあのウルウのひょろりと細長い影はどこにも見つけられませんでした。
まさか、と私たちは顔を見合わせました。
そう、そうに違いありませんでした。ウルウはたった一人、あの怪しい部屋に閉じ込められてしまったに違いないのでした。
「ウルウがどうにかされるとも思えないけど、分断されたのはまずいわね。すぐに戻りましょう」
「ええ!」
しかし、私たちが急いで玄関扉にとりつくと、先ほどはあんなにすんなり開いたというのに、今度はまるでぴったりと溶接してしまったかのように扉はかたくなに閉ざされたままなのです。
「鍵! ああ、鍵はウルウが持ってるんだった!」
「閉じ込め案件は二階からの侵入と相場が決まってますけど……」
とはいえ、そんな悠長なことも言っていられません。
今この瞬間にも、ウルウがどうなっているのか知れたものではないのです。
私は早速腰だめに構えて、勢いよく扉の取っ手のあたりを狙って蹴りつけました。大抵の扉ならばこれで壊せるのですけれど、余程頑丈なのか、私が軽すぎるのか、びくともしません。
何度か勢いをつけて蹴りつけてもまるで巨木に体当たりしているような手ごたえのなさで、しまいにはトルンペートと二人がかりで飛び掛かっても、かえってこちらがはじき返されてしまう始末でした。
「しかたありません。剣をこのような使い方はしたくありませんけれど……」
「あんたこの前まき割に使ってたわよね」
「この際仕方がありません、切り開きましょう!」
私は剣を握りしめ、全体重をかけて切りかかりました。
大具足裾払の甲殻から研ぎだされたこの剣は、生中な鋼よりもはるかに粘り気があり、そして鋭い刃です。
これで切りかかって平然としていられる扉などここにありました。
まさかのまさか、ありました。
まるで鋼鉄の塊でも殴りぬけたかのように衝撃が帰ってきて、私は余りのことに手をしびれさせて、思わず剣を取り落とすところでした。
「なっ、ばっ、リリオが切れないですって!? 怪力くらいしか能がないのに!?」
「後で覚えていてくださいよトルンペートぉ……!」
しかし今はそれどころではありません。
今この瞬間にも、ウルウがどうなっているのか知れたものではないのです。
結構時間が経ってますけれど、まだ無事だといいのですが。
私はもうこうなれば最終手段しかないと、剣を握りしめて雷精を集め始めました。
「ちょっ、あんたっ」
「もうこうなったら手加減抜きです!」
刀身に雷精が集い、ぱりぱりと空中に放電が走り始めます。暴れたがり屋な雷精をうまく刀身にまとめて、その間に風精で扉までの間に道を作ります。この二つを精妙に操るだけのことに、私がどれだけの苦労をしたか。
メザーガにはあっけなく弾かれてしまいましたが、あれはほとんど竜の粋にある人の業です。
たかが扉、私の一閃でねじ伏せて見せます。
私は剣を振りかざし、為にため込んだ雷精を一斉に放ちました。
「突き穿て――――『雷鳴一閃』!!!」
目の前が真っ白になるほどの閃光。
耳が破裂するのではないかと言う轟音。
地上から放たれたいかずちが、風の道を通って一直線に扉を、そして館を焼き尽くしませんでした。
はい。
焼き尽くしませんでした。
あ、この流れ見たことある。
メザーガの時と同じやつです。
激しい光が去ったあと、呆然と見つめるその先では、衝撃でびりびりと揺さぶられながら、それでもいまだに焦げ跡程度が残るばかりで至って健在の玄関扉が堂々と立ちふさがっているのでした。
「……そげな……」
余りのことにふらっと膝をついてしまった私たちの前で、不意に扉ががちゃりと開かれました。
「なにやってるのさ、騒がしい」
そうしてひょっこりと顔を出したのは、暢気な顔をしたウルウでした。
用語解説
・「……そげな……」
意訳「……そんな……」
いざ錬金術師の館に挑む三人。
中では奇妙なことがおこり始めて。
誰もいないのに開け閉めされる扉。自然にともる明かり。
そして今度は、私たちを待ち構えるかのように用意されていたお茶とお茶菓子。
なんだかわかりませんが、とにかく何かしらの怪しい事態が起きている。
そう悟った瞬間、私は剣を抜いていました。トルンペートもまた短刀を構えています。
何がどこから来るのかわからないけれど、とにかく警戒を、と思った次の瞬間、ごうと恐ろしいほどの突風が吹いたかと思うと、私たちの軽い体はいともたやすく吹き飛ばされ、部屋からはじき出されてしまいました。
これは抗おうとしても全くかなわないほどの猛風で、私たちは瞬く間に転がされ、突き飛ばされ、気づけば玄関扉から追い出され、そして目の前で扉がばたんとしまったのでした。
「あいたたた……」
「とんでもない風だったわね……リリオ、ウルウ、大丈夫?」
「私は大丈夫です。ウルウ? ウルウは?」
「あれ、ウルウ?」
私たちは慌ててあたりを見回しましたが、そこにはあのウルウのひょろりと細長い影はどこにも見つけられませんでした。
まさか、と私たちは顔を見合わせました。
そう、そうに違いありませんでした。ウルウはたった一人、あの怪しい部屋に閉じ込められてしまったに違いないのでした。
「ウルウがどうにかされるとも思えないけど、分断されたのはまずいわね。すぐに戻りましょう」
「ええ!」
しかし、私たちが急いで玄関扉にとりつくと、先ほどはあんなにすんなり開いたというのに、今度はまるでぴったりと溶接してしまったかのように扉はかたくなに閉ざされたままなのです。
「鍵! ああ、鍵はウルウが持ってるんだった!」
「閉じ込め案件は二階からの侵入と相場が決まってますけど……」
とはいえ、そんな悠長なことも言っていられません。
今この瞬間にも、ウルウがどうなっているのか知れたものではないのです。
私は早速腰だめに構えて、勢いよく扉の取っ手のあたりを狙って蹴りつけました。大抵の扉ならばこれで壊せるのですけれど、余程頑丈なのか、私が軽すぎるのか、びくともしません。
何度か勢いをつけて蹴りつけてもまるで巨木に体当たりしているような手ごたえのなさで、しまいにはトルンペートと二人がかりで飛び掛かっても、かえってこちらがはじき返されてしまう始末でした。
「しかたありません。剣をこのような使い方はしたくありませんけれど……」
「あんたこの前まき割に使ってたわよね」
「この際仕方がありません、切り開きましょう!」
私は剣を握りしめ、全体重をかけて切りかかりました。
大具足裾払の甲殻から研ぎだされたこの剣は、生中な鋼よりもはるかに粘り気があり、そして鋭い刃です。
これで切りかかって平然としていられる扉などここにありました。
まさかのまさか、ありました。
まるで鋼鉄の塊でも殴りぬけたかのように衝撃が帰ってきて、私は余りのことに手をしびれさせて、思わず剣を取り落とすところでした。
「なっ、ばっ、リリオが切れないですって!? 怪力くらいしか能がないのに!?」
「後で覚えていてくださいよトルンペートぉ……!」
しかし今はそれどころではありません。
今この瞬間にも、ウルウがどうなっているのか知れたものではないのです。
結構時間が経ってますけれど、まだ無事だといいのですが。
私はもうこうなれば最終手段しかないと、剣を握りしめて雷精を集め始めました。
「ちょっ、あんたっ」
「もうこうなったら手加減抜きです!」
刀身に雷精が集い、ぱりぱりと空中に放電が走り始めます。暴れたがり屋な雷精をうまく刀身にまとめて、その間に風精で扉までの間に道を作ります。この二つを精妙に操るだけのことに、私がどれだけの苦労をしたか。
メザーガにはあっけなく弾かれてしまいましたが、あれはほとんど竜の粋にある人の業です。
たかが扉、私の一閃でねじ伏せて見せます。
私は剣を振りかざし、為にため込んだ雷精を一斉に放ちました。
「突き穿て――――『雷鳴一閃』!!!」
目の前が真っ白になるほどの閃光。
耳が破裂するのではないかと言う轟音。
地上から放たれたいかずちが、風の道を通って一直線に扉を、そして館を焼き尽くしませんでした。
はい。
焼き尽くしませんでした。
あ、この流れ見たことある。
メザーガの時と同じやつです。
激しい光が去ったあと、呆然と見つめるその先では、衝撃でびりびりと揺さぶられながら、それでもいまだに焦げ跡程度が残るばかりで至って健在の玄関扉が堂々と立ちふさがっているのでした。
「……そげな……」
余りのことにふらっと膝をついてしまった私たちの前で、不意に扉ががちゃりと開かれました。
「なにやってるのさ、騒がしい」
そうしてひょっこりと顔を出したのは、暢気な顔をしたウルウでした。
用語解説
・「……そげな……」
意訳「……そんな……」