前回のあらすじ
おっさんにはおっさんの都合がある。
その日は良く晴れた日だった。
時折木枯らしが冷たく身を切るけど、日差しはまだ強く、秋としてはまずまず歩きやすい天気と言えた。
夏の頃と比べればはっきりと人通りは減っていたが、それでもなおヴォーストの街はいまだ活気というものを忘れずにいるようだった。
耳を澄ませばよく乾いた空気にのって、商店の客呼びの声まで、聞こえてきそうであった。
そんな良く晴れた爽やかな秋の日に、メザーガ冒険屋事務所のささやかな執務室に私たち《三輪百合》は集められていた。
応接用のソファに私たちは腰を下ろしていたけれど、たかだか冒険屋事務所の、執務室兼応接室においてあるようなソファにしては、なかなか座り心地が良かった。
そしてその立場を最低限は主張するようないくらか造りの良い机にどっかりと肘をついているのが、所長のメザーガだった。貫禄があるというには少々若いし、かといって若者と呼ぶにはいささかダンディすぎる。
知る人が見ればそれだけで身構えるような、かつては大いに名を知られた冒険屋パーティ《一の盾》のリーダーであったらしいけれど、正直いろんな意味で全くの余所者に過ぎない私からすると、下っ腹が出てくることに対して恐怖を覚え始めている中年としか思えない。
「あ、豆茶が入りましたよ」
そこに可憐な町娘風に装った、しかし実質的にはこの事務所の事務仕事の半分を預かっている労働基準法違反のクナーボが、それぞれに豆茶のカップを渡して回ってくれた。
「さて、今日お前たちに集まってもらった理由だが」
絶対に笑ってはいけない冒険屋事務所とかだろうか。
そんな風にのんびり構えていたのだが、どうもこの胃がねじ切れそうなほどに面倒臭そうな顔をしているおっさんはそれどころではなさそうだった。
「はっきり言って、俺はお前たちが冒険屋をやっていくことに正直反対だ」
「えー、まだそう言うの蒸し返すんですかー」
「もうそのやり取り終わった」
「あたしお昼ご飯の支度あるんですけど」
「おっまえらほんっともう、ほんと、年頃の娘たちってのはよーもー」
私はもう年ごろと言うにはちょっとトウが立っているのだけれど、それでもまあ女三人寄れば姦しいと言う。甲高い女三人の声でなじられればさすがにおじさんとしては辛いものがあるだろう。
「あのな、おっさんはな、お前らの安全を思ってだな」
「乙種魔獣を平らげる乙女に身の安全もあったもんじゃないと思う」
「いや、それそれとして乙女として心配はしてほしいんですけど」
「安全もいいですけどおちんぎん上がりません?」
「もーやだこいつらー、なに? おっさん虐めて楽しい?」
正直ちょっと楽しい。
まあでもこれ以上遊んでも時間を食うだけだ、大人しく聞こう。
「ともかくだ。俺も、リリオの親父さんも、お前たちに危険な冒険屋稼業なんて続けてほしくない。だがお前らはやりたい。そこで折衷案だ」
「せっちゅうあん?」
「いいとこどりってとこかな」
「要するにだ。お前たちは冒険したい。俺達は危険な事をしてほしくない。これを両立できればいいわけだ」
そんな無茶な、とは思うけど、まあ何となく持っていく先は読めた。
私はどうでもいいけど、リリオが反発しそうなやつ。
「つまり、お前たちはこのまま冒険屋を続ける。俺の膝元で。これなら心配症のおっさんどももいくらかは安心できる。そうだろ?」
「まあ、そう、ですねえ」
「そう、俺達も妥協してるんだ。わかってくれるだろ、リリオ」
「う、ええ、それ、は、まあ」
押されてる。こんなぐだっぐだの交渉で押されてる。
《三輪百合》の一番の弱点って、交渉得意なのがいないってことだよね。
基本脳筋なんだよ、このトリオ。私も含めて。
「そんで、俺達が妥協するのと同じくらい、お前達にも妥協してほしい」
「う、ううん、妥当な気もします」
「妥当なんだよ。な?」
「うええ……は、はい……?」
「うん。妥当だ。それでお前たちに妥協してほしいという点だけどな」
メザーガは少し冷めてきた豆茶を口にして唇を湿らせると、ことのほか明るい様子で妥協案とやらを提示してきた。
「なあに、難しいこたぁねえ! ただちょっと、旅に出るのはやめてもらおうって」
「嫌です」
「話なんだけどよぉ……まあ、わかってたとはいえ、傷つくぜ、おっさんも」
「嫌なものは嫌です」
そう、脳筋なんだよねえ、うちの面子。そもそも難しい話聞いてないんだもん。
まあ、話の流れは読めていた。
要するに、危険は危険でもまだ、《一の盾》のおひざ元であるヴォースト付近での冒険屋稼業ならまだ安心できる。だから近場での冒険で満足してもらって、旅に出るのは諦めてもらおう。とそういう話だったんだろうけれど、何しろリリオの大目的が旅に出ておふくろさんの故郷まで行くことだ。冒険が小目的でしかない以上、これは成立しないよ、もともと。
まあメザーガもわかっていたんだろうけれど、それでも恐ろしく面倒くさそうにため息を吐いている。
「なあ、リリオ。俺もそれなりに冒険屋をやってきて、それこそ酸いも甘いも体験してきた。お前さんなら乗り越えられるかもしれねえとは思うが、それでもあえて挑んでほしいとはとてもじゃねえが思わねえ。親心みてえなもんだ。心配してるんだ。わかってくれ」
「わかります。でも嫌です」
「ちょっとでいいんだ。大人になってくれ」
「私はもう成人です。ずいぶん待ちました。あと何年待てばいいんです」
「……そういうことじゃあねえんだ。諦めてくれ」
「い、や、で、す」
「…………」
メザーガは深くため息を吐いて、シガーケースから煙草を取り出し、それから思い出したように苛立たしげにそれをしまい、代わりに棒付きの飴を取り出して咥え、がりがりと齧った。
「ああああああああもうよぉおおおおお、おっさんの方が嫌だっつってんだよぉぉぉおおお」
という心の叫びが聞こえてきそうなほどの顔面芸ではあるが、あまり長いこと見ていたくなるような顔面でもない。リリオと一緒で大人しくしていれば割といい顔面だと思うのだが、南部人の血統は表情を大人しくさせるということを遺伝的に放棄しているのだろうか。
飴をすっかりかみ砕き、棒自体もこれ以上ない程に噛み潰し、ゴミ箱にぽいと放り投げてから、落ち着きを取り戻したメザーガはダンディに豆茶をすすった。
「そうか。わかった」
「わかっていただけましたか!」
「馬鹿犬は多少痛い目を見てもらわねえと躾にならねえってのがわかった」
こんなことはしたくないとか、こんなことは言いたくないとかいうやつの大半は、したくて言いたくてたまらない連中だが、少なくともメザーガは心底したくもなければ言いたくもないという大人であるようだった。何しろ面倒だからだ、と言うのが透けて見える。
「最終試験を受けてもらう。それを合格できなけりゃ、荷物をまとめて辺境に帰ってもらうぜ」
「試験って言いますけど、それって最初に来た時にうけましたよね?」
「ありゃ見習いとしての試験だ。いまのお前は冒険屋見習い。馴染むまでは見習いっつったろ」
「大分馴染んだと思うんですけど」
「それを見定める試験だ」
メザーガは改めて棒付きの飴を取り出すと、今度は噛み砕かずに、かちかちと歯で軽く噛みながら、手元の書類をぺらぺらと捲った。
「うちの古株どもの試験によりゃ、お前たちはまずまず優秀と言っていい。見習いとしちゃな」
「パフィストのクソのあれを試験扱いするのはどうかと」
「うちのクソがその節は御迷惑をおかけした」
その点に関してはメザーガもクソ扱いは同意するらしい。
「ただ、やりようはクソだが、試験難易度的にはあれ位は目安だったと思ってくれていい」
そして人格とは別に仕事はきちんと評価するのがメザーガと言う男らしい。
「クソだが」
人格はやっぱりクソ扱いらしい。
「それで、だ。見習い卒業の最終試験としては一番わかりやすいものを持ってきた」
「わかりやすいものっていうと」
「そうだ。腕っぷしを見せてもらう」
「乙種魔獣じゃダメなんですか?」
「ありゃちょっと採点甘くしたところもあるし、魔獣ってのは事前に準備しとけばそれほどの相手でもねえからな」
まあ、言うほどの難易度ではなかったかなと感じていた。でもあれは何の準備も知識もなく当たっていれば相当な被害だったはずで、段取りが大事なのはどの業界でも同じことらしい。
「段取りが冒険屋の仕事の殆どだと言っていいが、かといって仕上げが杜撰じゃ話にならねえ。地力の部分がどんだけ育っているか、そいつを見せてもらうために、うちの冒険屋連中と当たってもらう」
「フムン。まさか《一の盾》を真っ向から打ち崩せとか言わないですよね」
「さすがに手加減はしてやる。形式は一対一。実力差を埋めるためにある程度条件付けはするが、基本的には単純な殴り合いだと思ってくれていい」
リリオはそれで納得しているが、脳筋トリオの頭のいい方担当としてはもうちょっと情報を集めておきたい。トルンペートをちらりと見やれば、彼女も同じようだった。
「それで、メザーガさん。試合はどこで行うのかしら?」
「知り合いの石屋が持ってる採石場跡を訓練所として借りてる。そこを使うつもりだ」
「天候は関係なし?」
「と言いたいところだが、おっさんも年なんでな、こんな寒い秋に雨に濡れながら観戦なんぞしたくねえ。雨天中止だ」
「試合のカードは?」
「当日までの秘密、と言いてえところだが、まああんまり不利にすると可哀そうだからな、教えておいてやる」
勿体ぶるでもなく、メザーガは手元のメモ紙にさらさらと対戦表を書いて寄越してくれた。
もっとも、その気軽さとは裏腹に、中身は私たちを大いに困惑させるものだったが。
第一戦目 トルンペート・オルフォ 対 クナーボ・チャスィスト
第二戦目 ウルウ・アクンバー 対 ナージャ・ユー
第三戦目 リリオ・ドラコバーネ 対 メザーガ・ブランクハーラ
「私の苗字結局アクンバー扱いなのか……」
「そこ!?」
おっさんにはおっさんの都合がある。
その日は良く晴れた日だった。
時折木枯らしが冷たく身を切るけど、日差しはまだ強く、秋としてはまずまず歩きやすい天気と言えた。
夏の頃と比べればはっきりと人通りは減っていたが、それでもなおヴォーストの街はいまだ活気というものを忘れずにいるようだった。
耳を澄ませばよく乾いた空気にのって、商店の客呼びの声まで、聞こえてきそうであった。
そんな良く晴れた爽やかな秋の日に、メザーガ冒険屋事務所のささやかな執務室に私たち《三輪百合》は集められていた。
応接用のソファに私たちは腰を下ろしていたけれど、たかだか冒険屋事務所の、執務室兼応接室においてあるようなソファにしては、なかなか座り心地が良かった。
そしてその立場を最低限は主張するようないくらか造りの良い机にどっかりと肘をついているのが、所長のメザーガだった。貫禄があるというには少々若いし、かといって若者と呼ぶにはいささかダンディすぎる。
知る人が見ればそれだけで身構えるような、かつては大いに名を知られた冒険屋パーティ《一の盾》のリーダーであったらしいけれど、正直いろんな意味で全くの余所者に過ぎない私からすると、下っ腹が出てくることに対して恐怖を覚え始めている中年としか思えない。
「あ、豆茶が入りましたよ」
そこに可憐な町娘風に装った、しかし実質的にはこの事務所の事務仕事の半分を預かっている労働基準法違反のクナーボが、それぞれに豆茶のカップを渡して回ってくれた。
「さて、今日お前たちに集まってもらった理由だが」
絶対に笑ってはいけない冒険屋事務所とかだろうか。
そんな風にのんびり構えていたのだが、どうもこの胃がねじ切れそうなほどに面倒臭そうな顔をしているおっさんはそれどころではなさそうだった。
「はっきり言って、俺はお前たちが冒険屋をやっていくことに正直反対だ」
「えー、まだそう言うの蒸し返すんですかー」
「もうそのやり取り終わった」
「あたしお昼ご飯の支度あるんですけど」
「おっまえらほんっともう、ほんと、年頃の娘たちってのはよーもー」
私はもう年ごろと言うにはちょっとトウが立っているのだけれど、それでもまあ女三人寄れば姦しいと言う。甲高い女三人の声でなじられればさすがにおじさんとしては辛いものがあるだろう。
「あのな、おっさんはな、お前らの安全を思ってだな」
「乙種魔獣を平らげる乙女に身の安全もあったもんじゃないと思う」
「いや、それそれとして乙女として心配はしてほしいんですけど」
「安全もいいですけどおちんぎん上がりません?」
「もーやだこいつらー、なに? おっさん虐めて楽しい?」
正直ちょっと楽しい。
まあでもこれ以上遊んでも時間を食うだけだ、大人しく聞こう。
「ともかくだ。俺も、リリオの親父さんも、お前たちに危険な冒険屋稼業なんて続けてほしくない。だがお前らはやりたい。そこで折衷案だ」
「せっちゅうあん?」
「いいとこどりってとこかな」
「要するにだ。お前たちは冒険したい。俺達は危険な事をしてほしくない。これを両立できればいいわけだ」
そんな無茶な、とは思うけど、まあ何となく持っていく先は読めた。
私はどうでもいいけど、リリオが反発しそうなやつ。
「つまり、お前たちはこのまま冒険屋を続ける。俺の膝元で。これなら心配症のおっさんどももいくらかは安心できる。そうだろ?」
「まあ、そう、ですねえ」
「そう、俺達も妥協してるんだ。わかってくれるだろ、リリオ」
「う、ええ、それ、は、まあ」
押されてる。こんなぐだっぐだの交渉で押されてる。
《三輪百合》の一番の弱点って、交渉得意なのがいないってことだよね。
基本脳筋なんだよ、このトリオ。私も含めて。
「そんで、俺達が妥協するのと同じくらい、お前達にも妥協してほしい」
「う、ううん、妥当な気もします」
「妥当なんだよ。な?」
「うええ……は、はい……?」
「うん。妥当だ。それでお前たちに妥協してほしいという点だけどな」
メザーガは少し冷めてきた豆茶を口にして唇を湿らせると、ことのほか明るい様子で妥協案とやらを提示してきた。
「なあに、難しいこたぁねえ! ただちょっと、旅に出るのはやめてもらおうって」
「嫌です」
「話なんだけどよぉ……まあ、わかってたとはいえ、傷つくぜ、おっさんも」
「嫌なものは嫌です」
そう、脳筋なんだよねえ、うちの面子。そもそも難しい話聞いてないんだもん。
まあ、話の流れは読めていた。
要するに、危険は危険でもまだ、《一の盾》のおひざ元であるヴォースト付近での冒険屋稼業ならまだ安心できる。だから近場での冒険で満足してもらって、旅に出るのは諦めてもらおう。とそういう話だったんだろうけれど、何しろリリオの大目的が旅に出ておふくろさんの故郷まで行くことだ。冒険が小目的でしかない以上、これは成立しないよ、もともと。
まあメザーガもわかっていたんだろうけれど、それでも恐ろしく面倒くさそうにため息を吐いている。
「なあ、リリオ。俺もそれなりに冒険屋をやってきて、それこそ酸いも甘いも体験してきた。お前さんなら乗り越えられるかもしれねえとは思うが、それでもあえて挑んでほしいとはとてもじゃねえが思わねえ。親心みてえなもんだ。心配してるんだ。わかってくれ」
「わかります。でも嫌です」
「ちょっとでいいんだ。大人になってくれ」
「私はもう成人です。ずいぶん待ちました。あと何年待てばいいんです」
「……そういうことじゃあねえんだ。諦めてくれ」
「い、や、で、す」
「…………」
メザーガは深くため息を吐いて、シガーケースから煙草を取り出し、それから思い出したように苛立たしげにそれをしまい、代わりに棒付きの飴を取り出して咥え、がりがりと齧った。
「ああああああああもうよぉおおおおお、おっさんの方が嫌だっつってんだよぉぉぉおおお」
という心の叫びが聞こえてきそうなほどの顔面芸ではあるが、あまり長いこと見ていたくなるような顔面でもない。リリオと一緒で大人しくしていれば割といい顔面だと思うのだが、南部人の血統は表情を大人しくさせるということを遺伝的に放棄しているのだろうか。
飴をすっかりかみ砕き、棒自体もこれ以上ない程に噛み潰し、ゴミ箱にぽいと放り投げてから、落ち着きを取り戻したメザーガはダンディに豆茶をすすった。
「そうか。わかった」
「わかっていただけましたか!」
「馬鹿犬は多少痛い目を見てもらわねえと躾にならねえってのがわかった」
こんなことはしたくないとか、こんなことは言いたくないとかいうやつの大半は、したくて言いたくてたまらない連中だが、少なくともメザーガは心底したくもなければ言いたくもないという大人であるようだった。何しろ面倒だからだ、と言うのが透けて見える。
「最終試験を受けてもらう。それを合格できなけりゃ、荷物をまとめて辺境に帰ってもらうぜ」
「試験って言いますけど、それって最初に来た時にうけましたよね?」
「ありゃ見習いとしての試験だ。いまのお前は冒険屋見習い。馴染むまでは見習いっつったろ」
「大分馴染んだと思うんですけど」
「それを見定める試験だ」
メザーガは改めて棒付きの飴を取り出すと、今度は噛み砕かずに、かちかちと歯で軽く噛みながら、手元の書類をぺらぺらと捲った。
「うちの古株どもの試験によりゃ、お前たちはまずまず優秀と言っていい。見習いとしちゃな」
「パフィストのクソのあれを試験扱いするのはどうかと」
「うちのクソがその節は御迷惑をおかけした」
その点に関してはメザーガもクソ扱いは同意するらしい。
「ただ、やりようはクソだが、試験難易度的にはあれ位は目安だったと思ってくれていい」
そして人格とは別に仕事はきちんと評価するのがメザーガと言う男らしい。
「クソだが」
人格はやっぱりクソ扱いらしい。
「それで、だ。見習い卒業の最終試験としては一番わかりやすいものを持ってきた」
「わかりやすいものっていうと」
「そうだ。腕っぷしを見せてもらう」
「乙種魔獣じゃダメなんですか?」
「ありゃちょっと採点甘くしたところもあるし、魔獣ってのは事前に準備しとけばそれほどの相手でもねえからな」
まあ、言うほどの難易度ではなかったかなと感じていた。でもあれは何の準備も知識もなく当たっていれば相当な被害だったはずで、段取りが大事なのはどの業界でも同じことらしい。
「段取りが冒険屋の仕事の殆どだと言っていいが、かといって仕上げが杜撰じゃ話にならねえ。地力の部分がどんだけ育っているか、そいつを見せてもらうために、うちの冒険屋連中と当たってもらう」
「フムン。まさか《一の盾》を真っ向から打ち崩せとか言わないですよね」
「さすがに手加減はしてやる。形式は一対一。実力差を埋めるためにある程度条件付けはするが、基本的には単純な殴り合いだと思ってくれていい」
リリオはそれで納得しているが、脳筋トリオの頭のいい方担当としてはもうちょっと情報を集めておきたい。トルンペートをちらりと見やれば、彼女も同じようだった。
「それで、メザーガさん。試合はどこで行うのかしら?」
「知り合いの石屋が持ってる採石場跡を訓練所として借りてる。そこを使うつもりだ」
「天候は関係なし?」
「と言いたいところだが、おっさんも年なんでな、こんな寒い秋に雨に濡れながら観戦なんぞしたくねえ。雨天中止だ」
「試合のカードは?」
「当日までの秘密、と言いてえところだが、まああんまり不利にすると可哀そうだからな、教えておいてやる」
勿体ぶるでもなく、メザーガは手元のメモ紙にさらさらと対戦表を書いて寄越してくれた。
もっとも、その気軽さとは裏腹に、中身は私たちを大いに困惑させるものだったが。
第一戦目 トルンペート・オルフォ 対 クナーボ・チャスィスト
第二戦目 ウルウ・アクンバー 対 ナージャ・ユー
第三戦目 リリオ・ドラコバーネ 対 メザーガ・ブランクハーラ
「私の苗字結局アクンバー扱いなのか……」
「そこ!?」