「おはよう、結城くん」

「おはよ、相原」

週明け、私はいつものように自分の席に着く。
結城くんと特別な挨拶は無く、ただおはようを言うだけ。
今まで通りと変わらない日常。
ただ、一つだけ違うところがあった。

「あれ、鈴子ちゃん、なんかいつもと声が違う?」

挨拶をしに来てくれた友達が首を傾げている。

「うーん、ちょっと遅い変声期かな」

「鈴子ちゃんが冗談言うなんてめずらしいね。でも、今の声の鈴子ちゃんも素敵だよ」

「……ありがとう」

ここには、優しい人たちがたくさんいてくれる。
過去の傷は残ったままだけれど、最初から俯く必要なんてなかったのかもしれない。

ふいに、結城くんと目が合う。

まだ完全には消えないけれど、目には見えない透明な壁は、ゆっくり溶けていくのを感じる。
私の声で喋る私は、新鮮なようで、なんだか懐かしいようで、それでも少しだけ息がしやすくなった気がした。