ギルガリーザ商会の全てを統括する幹部陣が円の形をした卓を取り囲むように座っている。
幹部陣全員が無言でこちらに目線を向けている。彼らは戦闘職でないにも関わらず視線にかなりの圧が込められている。
なるほど、これが貴族や他の商会の幹部陣とやり合っている歴戦の猛者である証だ。彼らは彼らの戦場で生き抜いてきた強者であることを忘れてはいけない。
腹の探り合いではマリー以外はきっと手も足も出ないんでしょうね。
一番奥に座っている商会長が口を開いた。
「ようこそ、災厄の化身の皆様」
「カラ…… 何それ?」
「皆様はパーティー名を未だに決められていないという事で周囲の方々が解りやすいようにと便宜上付けられた仮のパーティー名ですよ。そういった情報はマリーさんの方がお詳しいのではありませんか?」
「マリー、本当かい?」
「ええ、耳にはしていたわ。所詮パーティー名なんて集団を特定するための記号でしかないでしょう? なんでもいいわよ」
その言葉を聞いた途端にアリスが顔をぷくーっと膨らませてマリーに突っかかる。
「だったら『ディックとアリスのワンダーランド』以外認めないと言った時になんで賛同してくれなかったんだ?」
アリス…… それだとパーティーメンバーは二人になってしまうけど……。
「はぁ? 何でもと言ったけど、そんな不思議ちゃんみたいな痛々しいパーティー名は流石に限度というものを超えてるわ。やっぱり『ディックを影から見守り隊』が無難だと何度も言ってるでしょう」
マリー…… 影って…… 真正面から見守ればいいでしょう。パーティー名からどことなくヘラの香りがするんだけど……。
「『ディック聖十字騎士団』が良いと散々言いましたのに」
リシェル…… 一番まともそうではあるけど、教会に所属しているの君一人じゃないか。教会から怒られないか?
「『ディックのお料理教室』にしようよ。はーちゃんも賛同してくれてるしさ」
セリーヌ…… 冒険者要素皆無なんだけど? アリスと同レベルの知能と言わざるを得ない。爽やか少女だと思った子は結構頭が残念な子だった。
唐突な内輪揉めが始まってしまった。貴方達、ここに何をしに来たのか忘れたの?
「皆様…… そういったお話は後ほど皆様で行っていただくとして、本日こちらへお越し頂いたご用件についてお伺いしましょう。空いている椅子は一つしかありませんが、よろしければおかけください」
商会長の言葉に商会長の真正面に空いている席にマリーが座る。幹部陣の圧などお構いなしにマリーが話始める。
「では失礼いたします。今回こちらに伺った理由は、私のパーティーメンバーが御社内の揉め事に巻き込まれた件に対する管理責任問題の追及並びにメンバーが被った賠償請求…… そして御社内事業の縮小要求です」
マリーが口を開くまで無表情見つめているだけの幹部陣が驚いたような表情で周りと小声で話始めた。
内容については私も吃驚した。ディックが被害を受けた箇所については判るんだけど、事業の縮小要求ってどういう事?
唯一、表情を変えていないのは商会長だけだ。その商会長はマリーの事を真っ直ぐに見つめている。マリーも周りのざわつきなど気にせずに商会長を見つめている。
「ふむ、思ったより要求が多いようですね。それでは一つずつ整理するとしましょうか。まずは、弊社内の揉め事について整理しましょう。お恥ずかしい事にその話を今ここで初めて聞いたものですから、事情を全く知らないのです。申し訳ありませんがご説明願えますでしょうか」
「ロクサーヌさん」
「はっ、はひっ!」
突然声を掛けられて驚いて変な返答になってしまった。話の流れからウチが説明して当たり前なんだけど、マリーと商会長のやり取りに飲まれていて完全に蚊帳の外のつもりだったから吃驚しただけ。
「貴方が今回の事件に巻き込まれるキッカケとなった出来事があったはずです。そこから今日に至るまでの出来事を説明してもらえます?」
「わ、わかりました」
「君が…… うちの社員ということかね?」
「は、はい。ギルガリーザ商会 北方面営業所 第九課に所属しているロクサーヌと申します」
北方面営業所というのは裏事業の隠語であり、第九課の意味するところは『暗殺部隊に所属しています』と言ってる事と同義。これは同じ部隊の人間もしくは幹部陣以上にしか通じない部署名。
部署名を聞いて少し目つきが鋭くなった商会長。まあ、本来表に出てはいけない部隊に所属している人間がカタギを巻き込んだ挙句、本部の会議に乱入したんだから印象悪いのも無理はない。
「では説明を頼む」
「は、はい。事の始まりは――」
ウチが初対面の司令官にされた事、司令官着任後に復讐として権力乱用により言われた事、その後倉庫に無理やり連れていかれて強姦されかけた事、荷物の配達に来たディックがウチを庇ってくれた事、アリスが乱入してきた事、そして――ここに来た事の一部始終を出来る限り細かく語った。
「なるほど…… 君の言い分は理解した。ただ、言われたから「はい、そうですか」とこちらも全てを鵜呑みにするわけにはいかない。もう片方の当事者の言い分も聞きたいのだが……」
「勿論連れてきています。アリスお願い」
アリスが無言で頷くと、騒がれると面倒だと思って会議室の外に置かせていた司令官と同僚達を部屋の中に運び込み、地面に叩き落とした。その衝撃でようやく目を覚ました司令官と同僚達。
寝ている間に縛っておいたので余計な事は出来ないだろう。目を覚ました司令官は起きたばかりで状況が把握できていないのか数度頭をキョロキョロ動かしている。
頭がピタッと止まった所で目に入ったであろう人物は商会長。司令官はようやく自分が今どこにいるのかようやく理解したようで、顔を真っ青にしてプルプル身体を震わせている。
「な、な、なんで……? ここは…… 本部の会議室? しょ、商会長…… 一体これはどういう……」
商会長は相変わらず表情を変えない。司令官を見下ろす商会長からは今まで以上の圧を感じ取れる。
「君はつい先程までどこで何をして、誰に何をされてここにいるのか理解は出来ているかね?」
その言葉にハッとした司令官は誰かを探すかの様にキョロキョロしている。そこでようやく目を覚ました同僚達とウチを視界に入れたことを確認して自分の置かれている状況を理解したのか口を開いた。
「わ、私は新しく部下となったそこの女を教育すべく呼び出したに過ぎません。彼女等の同僚も手伝ってくれるとの事だったので場に居合わせていただけです」
「外部の人間を巻き込んだことについての釈明はあるかね?」
「荷物を運んできてくれた彼の事ですよね。うちの指導方法の事をあまり理解されていない様でしたので見かねて飛び込んできたようですが、実際は教育の一環ですから酷い事をするつもりはありませんでしたよ」
「なっ! 貴方達はロクサーヌさんを強姦しようとしていたじゃないですか!」
「それは誤解です。先程も申し上げましたが教育です。強姦の様に見えてしまった事に対しては謝罪します。そう見えただけですよ」
「ただ教育するだけで上半身裸にならないでしょう? それに僕の事も女性と勘違いした時に『この娘も頂いちまうか』とか言ってましたよね」
ディックと司令官の応酬が行われてる。もちろんウチの目線からしたらディックの言い分が正しいのだけれど、ここは最早敵地。司令官の言い訳に幹部陣が少しでも納得してしまったらウチ達の分が悪くなる。そんなことを考えてたら商会長が割って入って来た。
「横からすみませんが、言った言わないの話になると何時まで経っても決着がつかないと思うのですが、それであれば一旦持ち帰らせて頂けませんか? 社内で改めて関係者から再度聞き取り及び精査を行った上で最終回答をさせて頂ければと思います。ロクサーヌさんにも当事者として言い分はあるでしょうから彼女の話も聞かないといけません。如何ですか?」
ギエーッ! 恐れていた事が早速起きてしまった。どうしよう…… このままウチだけ取り残されて社内に一人残ってしまったら証拠隠滅の為にこのまま消されてしまうかもしれない。
こうなったらこの場で開き直って一暴れしてやろうかと動こうと思ったらウチの考えがまるで聞こえていたかの様にマリーがウチの動きを止めるかの様に腕で制止してきた。
その時のマリーの目は「今はまだ大人しくしていなさい」と言っているように見えた。マリーの出した決断は……。
「ご提案頂き恐縮ですが、私共は今日で全て決着を着けるつもりで来ております。ご心配なさらずとも皆様が納得いく形で着地させて見せましょう」
え? 本当に? 大丈夫なの? だってマリーはあの時、あの場にいなかったでしょう? どうやってみんなが納得行く形に収めるというの……?
うう、商会長も段々目線がきつくなって来てるよ。マリーがここで粘るとは思わなかったのかもしれないけど。
「ふむ、我々も会議を中断している都合上貴方達に使える時間もそう多くはありません。この一回の説明で納得いく形にならなければ持ち越しとさせて貰いますが構いませんね?」
「分かりました。それではすぐに準備しますね」
マリー、信じていいんだよね。もうウチの命運はこの人に託すしかない。
幹部陣全員が無言でこちらに目線を向けている。彼らは戦闘職でないにも関わらず視線にかなりの圧が込められている。
なるほど、これが貴族や他の商会の幹部陣とやり合っている歴戦の猛者である証だ。彼らは彼らの戦場で生き抜いてきた強者であることを忘れてはいけない。
腹の探り合いではマリー以外はきっと手も足も出ないんでしょうね。
一番奥に座っている商会長が口を開いた。
「ようこそ、災厄の化身の皆様」
「カラ…… 何それ?」
「皆様はパーティー名を未だに決められていないという事で周囲の方々が解りやすいようにと便宜上付けられた仮のパーティー名ですよ。そういった情報はマリーさんの方がお詳しいのではありませんか?」
「マリー、本当かい?」
「ええ、耳にはしていたわ。所詮パーティー名なんて集団を特定するための記号でしかないでしょう? なんでもいいわよ」
その言葉を聞いた途端にアリスが顔をぷくーっと膨らませてマリーに突っかかる。
「だったら『ディックとアリスのワンダーランド』以外認めないと言った時になんで賛同してくれなかったんだ?」
アリス…… それだとパーティーメンバーは二人になってしまうけど……。
「はぁ? 何でもと言ったけど、そんな不思議ちゃんみたいな痛々しいパーティー名は流石に限度というものを超えてるわ。やっぱり『ディックを影から見守り隊』が無難だと何度も言ってるでしょう」
マリー…… 影って…… 真正面から見守ればいいでしょう。パーティー名からどことなくヘラの香りがするんだけど……。
「『ディック聖十字騎士団』が良いと散々言いましたのに」
リシェル…… 一番まともそうではあるけど、教会に所属しているの君一人じゃないか。教会から怒られないか?
「『ディックのお料理教室』にしようよ。はーちゃんも賛同してくれてるしさ」
セリーヌ…… 冒険者要素皆無なんだけど? アリスと同レベルの知能と言わざるを得ない。爽やか少女だと思った子は結構頭が残念な子だった。
唐突な内輪揉めが始まってしまった。貴方達、ここに何をしに来たのか忘れたの?
「皆様…… そういったお話は後ほど皆様で行っていただくとして、本日こちらへお越し頂いたご用件についてお伺いしましょう。空いている椅子は一つしかありませんが、よろしければおかけください」
商会長の言葉に商会長の真正面に空いている席にマリーが座る。幹部陣の圧などお構いなしにマリーが話始める。
「では失礼いたします。今回こちらに伺った理由は、私のパーティーメンバーが御社内の揉め事に巻き込まれた件に対する管理責任問題の追及並びにメンバーが被った賠償請求…… そして御社内事業の縮小要求です」
マリーが口を開くまで無表情見つめているだけの幹部陣が驚いたような表情で周りと小声で話始めた。
内容については私も吃驚した。ディックが被害を受けた箇所については判るんだけど、事業の縮小要求ってどういう事?
唯一、表情を変えていないのは商会長だけだ。その商会長はマリーの事を真っ直ぐに見つめている。マリーも周りのざわつきなど気にせずに商会長を見つめている。
「ふむ、思ったより要求が多いようですね。それでは一つずつ整理するとしましょうか。まずは、弊社内の揉め事について整理しましょう。お恥ずかしい事にその話を今ここで初めて聞いたものですから、事情を全く知らないのです。申し訳ありませんがご説明願えますでしょうか」
「ロクサーヌさん」
「はっ、はひっ!」
突然声を掛けられて驚いて変な返答になってしまった。話の流れからウチが説明して当たり前なんだけど、マリーと商会長のやり取りに飲まれていて完全に蚊帳の外のつもりだったから吃驚しただけ。
「貴方が今回の事件に巻き込まれるキッカケとなった出来事があったはずです。そこから今日に至るまでの出来事を説明してもらえます?」
「わ、わかりました」
「君が…… うちの社員ということかね?」
「は、はい。ギルガリーザ商会 北方面営業所 第九課に所属しているロクサーヌと申します」
北方面営業所というのは裏事業の隠語であり、第九課の意味するところは『暗殺部隊に所属しています』と言ってる事と同義。これは同じ部隊の人間もしくは幹部陣以上にしか通じない部署名。
部署名を聞いて少し目つきが鋭くなった商会長。まあ、本来表に出てはいけない部隊に所属している人間がカタギを巻き込んだ挙句、本部の会議に乱入したんだから印象悪いのも無理はない。
「では説明を頼む」
「は、はい。事の始まりは――」
ウチが初対面の司令官にされた事、司令官着任後に復讐として権力乱用により言われた事、その後倉庫に無理やり連れていかれて強姦されかけた事、荷物の配達に来たディックがウチを庇ってくれた事、アリスが乱入してきた事、そして――ここに来た事の一部始終を出来る限り細かく語った。
「なるほど…… 君の言い分は理解した。ただ、言われたから「はい、そうですか」とこちらも全てを鵜呑みにするわけにはいかない。もう片方の当事者の言い分も聞きたいのだが……」
「勿論連れてきています。アリスお願い」
アリスが無言で頷くと、騒がれると面倒だと思って会議室の外に置かせていた司令官と同僚達を部屋の中に運び込み、地面に叩き落とした。その衝撃でようやく目を覚ました司令官と同僚達。
寝ている間に縛っておいたので余計な事は出来ないだろう。目を覚ました司令官は起きたばかりで状況が把握できていないのか数度頭をキョロキョロ動かしている。
頭がピタッと止まった所で目に入ったであろう人物は商会長。司令官はようやく自分が今どこにいるのかようやく理解したようで、顔を真っ青にしてプルプル身体を震わせている。
「な、な、なんで……? ここは…… 本部の会議室? しょ、商会長…… 一体これはどういう……」
商会長は相変わらず表情を変えない。司令官を見下ろす商会長からは今まで以上の圧を感じ取れる。
「君はつい先程までどこで何をして、誰に何をされてここにいるのか理解は出来ているかね?」
その言葉にハッとした司令官は誰かを探すかの様にキョロキョロしている。そこでようやく目を覚ました同僚達とウチを視界に入れたことを確認して自分の置かれている状況を理解したのか口を開いた。
「わ、私は新しく部下となったそこの女を教育すべく呼び出したに過ぎません。彼女等の同僚も手伝ってくれるとの事だったので場に居合わせていただけです」
「外部の人間を巻き込んだことについての釈明はあるかね?」
「荷物を運んできてくれた彼の事ですよね。うちの指導方法の事をあまり理解されていない様でしたので見かねて飛び込んできたようですが、実際は教育の一環ですから酷い事をするつもりはありませんでしたよ」
「なっ! 貴方達はロクサーヌさんを強姦しようとしていたじゃないですか!」
「それは誤解です。先程も申し上げましたが教育です。強姦の様に見えてしまった事に対しては謝罪します。そう見えただけですよ」
「ただ教育するだけで上半身裸にならないでしょう? それに僕の事も女性と勘違いした時に『この娘も頂いちまうか』とか言ってましたよね」
ディックと司令官の応酬が行われてる。もちろんウチの目線からしたらディックの言い分が正しいのだけれど、ここは最早敵地。司令官の言い訳に幹部陣が少しでも納得してしまったらウチ達の分が悪くなる。そんなことを考えてたら商会長が割って入って来た。
「横からすみませんが、言った言わないの話になると何時まで経っても決着がつかないと思うのですが、それであれば一旦持ち帰らせて頂けませんか? 社内で改めて関係者から再度聞き取り及び精査を行った上で最終回答をさせて頂ければと思います。ロクサーヌさんにも当事者として言い分はあるでしょうから彼女の話も聞かないといけません。如何ですか?」
ギエーッ! 恐れていた事が早速起きてしまった。どうしよう…… このままウチだけ取り残されて社内に一人残ってしまったら証拠隠滅の為にこのまま消されてしまうかもしれない。
こうなったらこの場で開き直って一暴れしてやろうかと動こうと思ったらウチの考えがまるで聞こえていたかの様にマリーがウチの動きを止めるかの様に腕で制止してきた。
その時のマリーの目は「今はまだ大人しくしていなさい」と言っているように見えた。マリーの出した決断は……。
「ご提案頂き恐縮ですが、私共は今日で全て決着を着けるつもりで来ております。ご心配なさらずとも皆様が納得いく形で着地させて見せましょう」
え? 本当に? 大丈夫なの? だってマリーはあの時、あの場にいなかったでしょう? どうやってみんなが納得行く形に収めるというの……?
うう、商会長も段々目線がきつくなって来てるよ。マリーがここで粘るとは思わなかったのかもしれないけど。
「ふむ、我々も会議を中断している都合上貴方達に使える時間もそう多くはありません。この一回の説明で納得いく形にならなければ持ち越しとさせて貰いますが構いませんね?」
「分かりました。それではすぐに準備しますね」
マリー、信じていいんだよね。もうウチの命運はこの人に託すしかない。