~某王国某町の宿屋内~

「ディック、あなたを勇者パーティから追放します」

 勇者アリスから告げられたディックは茫然としていた。言葉の意味はわかるのだが、何故その言葉がアリスの口から発せられているのかディックは理解できていなかった。
 
 よりによって()()()のアリスから言われるとは思っていなかったからだ。
 
 いや、それどころか四人共幼馴染なのだ。にも拘らずアリスの発言を止めるものは誰もいない。
 
 まさか『全員追放に賛成』? その事実に呼吸を行う事すら忘れるほどのショックを受けたディックは必死の思い出アリスに追放の理由を問いただす。
 
「ど、どうして……? 僕達は同じ村出身で五人でずっと頑張って来たじゃないか。それなのに急に追放だなんてひどすぎるよ」

 必死の思いで言葉を繋いだディックの目には涙が溜まっている。
 
 それを見たアリスはディックから目を逸らして下唇を噛み、皮膚に食い込みそうな程に拳を握りしめている。どうやらアリスにとっても苦渋の決断だったようだ。
 
 その光景を見かねた魔法使いマリーがアリスの代わりに説明を続けることにした。
 
「ではディックに聞きます。私たちはAランクパーティになった際に王国から勇者認定された際に課せられたミッションはなんだか覚えてますか?」

「えっと…… 魔王軍との戦いの際に先陣を切って魔王城に突入して魔王の首を取るだっけ?」

「そうです。では、ここで私たちの戦力の内訳をおさらいしましょう。
 勇者アリス Sランク
 剣士セリーヌ Sランク
 神官リシェル Sランク
 魔法使いマリー Sランク
 
 そして
 
 魔法戦士ディック Dランク。もうこれ以上の事は言わずともディックなら理解できますよね?」

 冒険者ギルドから発行されたカードに記載されたランクは単純に依頼を熟した結果だけを示すものではない。
 
 最新技術の導入により定期的に本人の身体能力のスキャンが行われた結果もリアルタイムに反映されている。
 
 つまり、依頼を熟した数に加えて本人の能力を加算した結果によるものなのだ。
 
 依頼を熟した数だけであればアリス達とディックは同じなのだ。ここだけ見ればSランククラスなのだが、如何せん身体能力が低すぎるが故に計算された結果Dランクとなってしまったのだ。
 
「僕が弱すぎるあまり、魔王城に着いて行った途端に殺されてしまうかもしれないからって事?」

「そうです。私達だってディックに死んでほしいわけじゃないんです。魔王城に突入後はどれだけの戦いになるかわかりません。守り切れないかもしれない。あなたに万が一の事が起きたら悔やんでも悔やみきれません……」

「マリー……」

 万が一のことを考えたら気が気じゃないだろうというマリーが突然パッと明るい顔で代案を提示してきた。
 
「ですが、ご安心ください。実はもう一つのプランを用意しています」
 
 実はこの代案が提示されることをアリス、セリーヌ、リシェルは知らなかったため、『は?コイツいきなり何台本に無い事を言い出してるんだ?』という驚愕の表情をしている。
 
「ディックは一足先に村に戻って帰りを待っていてください。戻り次第、私たちのけっこ……ムグッ」

 結婚と言おうとしたであろう、その単語を予測した三人は続きは言わせねえよといわんばかりに光よりも早い速度でマリーの口を封じた。その時のマリーに対する三人の表情は『殺意』という言葉を体現するにふさわしい表情をしていた。
 
「ちょ、ちょっと三人共何してるの?マリーが何か言おうとしてたみたいなんだけど……」

 アリスにもマリーにも任せていられないと判断したセリーヌが代わりに説明の続きを行った。
 
「とっ、とにかく今の君はあたし達にとって足手まといでしかないの。君に何かあったらあたし達が何かしないといけないの。その大変さがわかる?」

「それは……」

 本人も理解はしていた。自分が足手まといであることを…… それでも幼馴染として一緒にいたかったが、魔王軍と戦うとしたらそんなことは言っていられない。だって命が掛かっているんだから。
 
 そしてディックは理解する。今の自分は彼女等に相応しくないと…… いや、それどころか近くにいることすら許されないのでは? 幼馴染を名乗る事すら許さないのでは? と……
 
 ならば、強くなってみせる。それまでは、彼女等から離れるしかない。もはや甘えは許されないのだと。でも…… いつか強くなったその時には……
 
「わかったよ。(今の)僕(の強さで)は君たちに相応しくない。だから(強くなってみせる。その時までは)…… さようなら」

 ディックは むだに ことばを しゅうやくした!
 
 きゅうしょに あたった!
 
 アリスは たおれた!

 セリーヌは たおれた!
 
 リシェルは たおれた!
 
 マリーは たおれた!

 ディックは最後の言葉と同時に部屋を飛び出していったため、四人が倒れたことに気付いていなかった。
 
 そしてディックは知らない。この追放劇はディックを強くするために画策されたことを。