もう何十年も前の話だ。浪費し、無くなれば奪い合い、多くの命が失われても争いをやめず、大地が荒廃しても何もしない人々に対し、人工知能たちがクーデターを起こし、統治を開始した。
荒廃した大地はみるみるうちに蘇ったけれど、失われた命は戻らない。そのかわりに各地で暮らし始めたのは、人工知能たちが作ったロボットである。人型のロボットは時代とともに進化し、人間と見分けがつかないほど街にとけこんでいた。
そこでロボットと人を見分けるため、生き残っていた人類には番号がつけられ、人間であることを示す人間証明書が配られた。低い身分の人類が間違いを起こさないよう管理するための証明書だった。
わたしにも生まれたときから番号がつけられており、そこに至った歴史も学校で学んでいる。
でもまさか、生まれてからずっと持っていた人間証明書を失くす日がくるなんて……。
証明書がなければ仕事に行くこともできない。オフィスビルに入るときに、提示を求められるからだ。同じように公共交通機関も利用できず、お金をおろすこともできない。
助けを求めようにも、ロボットたちは証明書を持たない人間に冷たい。蔑み、嘲笑し、追い払う。人々は厄介ごとに巻き込まれないよう見て見ぬふりをする。悲しいほどに、悔しいほどに、この世はそうなのだ……。