簡単に説明したら『京都見廻組』とは、新選組と同様に京の治安維持組織。
しかし武家以外の身分の人間も多く所属している新選組とは違い、見廻組は幕臣によって結成されたものである。その職務内容も見廻組は主に御所などの警備や情報収集でだったりと、新選組とはまた少し違った組織であった。
そして同じ幕府側につくものでありながら、双方は互いをよく思っていない。身分や価値観の違いは衝突しか生まれないのだ。故に今まで協力し合うことなど1度もなかった2つの組織。
その見廻組の連中が今、こちらに向かっているという。
考えられることがあるとしたら、1つだけ。
「手柄を横取りにでもしにきましたか」
残念ながら手土産になりそうなものは、まだ1つも発見されていないが。
しかし不審人物が周囲にいない今、ずっとここで右往左往していても時間の無駄だった。
不毛な事件に嫌気がさした沖田は、もう手柄などくれてやると思いはしたが、近藤が許したとしても土方は許してくれないだろう。鬼の形相が頭をよぎった。
再びここでため息をひとつこぼした、その時。後ろで砂利を踏む音が聞こえてきた。
どうやら連中が来たらしい。些か面倒だが、ここは近藤を喜ばせる為だと自分を鼓舞した。ここは我ら新選組の管轄だと、ひと言文句を言ってやろう。そう思って口を開こうとしたのだが、まさかの事態に動きを止めざるを得なかった。
「あら、またお会いしましたね。・・・それもこんなところで」
そこに立っていた人物に驚いた沖田は大きく目を見開かせる。
「・・・瑠璃、様?」
「もしかしてお勤め中でしたか。こんな時間までご苦労様です」
現れたのは、神守屋の瑠璃だった。昼とはまた違った暗い色の着物を纏い、提灯を片手に登場した彼女は「今日の夜は少し冷えますね」と薄ら笑みを浮かべる。