そのあとは多少まじめに話を聞くようになり、霊コンは意外にも盛り上がった。

 スマホで写真を撮って、誰が一番くっきり映り込めるか選手権をしたり。調味料の塩に誰が一番近づけるか選手権をしたり。私たち(おんなのこ)としゃべれたことに満足してカゲヤマさんが成仏したときは、みんな拍手喝采だった。

 菜月というフィルターを通してるからかもしれないけど、みんな穏やかで、優しくて、いい人。なんだか久々に癒されてしまった。

 幽霊と付き合う、っていうのもいいのかもしれない。

 触れることはできないし、会話もままならないけれど。ただそばにいてくれるだけっていうのが、いい。

 恋愛経験なんてたいしてないけれど、そういうものに疲れていた私にはこの距離感がちょうどいいみたいだ。

 ……だけど……。

「あ、やっと十三人目が来た!」

 急に菜月が叫んだ。

 思わず、へ?と素っ頓狂な声を上げてしまう。

「十三人目? もしかして、今まで一人足りなかったの?」

「そうそう。人多すぎて気づかなかったっしょ」

 幽霊が遅刻ってどないやねん。現世にほかになんの用事があるっていうねん。

 怒りつつも、まぁ何人でもいいやとジョッキに口をつける。するとふと、私の左側に違和感を覚えた。

 空気が、変わった。

 あったかい。

 懐かしい匂い。

 そこにいるような、いないような。そんなわずかな、ほんのりとした気配を感じる。

 すごく薄い毛布みたいな——そんなものなくても全然かまわないんだけど、ないとないで自分がものすごく寒いところにいたんだと気づかされてしまうような——そんな、ふわっとした、あたたかさ。

 ……これって。

 菜月に促されて、遅れてきたという男性が私の左前の席に座った。

「ま、自己紹介から始めますかね。えーっと、名前は……なに? ごめんねぇ、もうちょっと大きい声で話してくれますかー」

 ぼそぼそ声で話しているのか、菜月が身を乗り出して耳をそばだてている。

 かぼそい声。

 ……知っている。

 私には聞こえないけれど。この、声。

 この感覚。

「……健斗?」

 小さく呟いた。

 菜月と、この場にいる男性陣のおそらく全員の視線が、私に集まる。

 菜月がぴくりと体を揺らした。

「え?」

「荻野、健斗……でしょ? そこにいるの」

「……え……健斗、って」

 菜月が左前の椅子に目を向ける。でも、菜月の答えなんか聞かなくたってわかる。だって知ってるもん、この感じ。

 私はなんともいえない感情で、空っぽの座席を見つめた。

「……健斗、やっと会いに来てくれたんだね」