親友の菜月は昔から合コンの幹事の天才と呼ばれていた。
高校時代に開催した合コンは数知れず。医者コンに弁護士コン、社長コンに大統領コン。一介の女子高生のくせにどこからそんなハイスペ男子を集めていたのか謎だったけれど、菜月はその人脈を活かして数えきれないほどのカップルを誕生させてきた。
あれから三年。日々合コンに明け暮れていた菜月は、同じ大学のクラスメイトと意気投合してあっさり学生結婚をしてしまった。
そのせいか、私にいまだに恋人がいないことを気にしている。
「……やっぱり断ればよかった、かな」
店の前に立つと、私は小さくため息をついた。
目の前には菜月が予約した、アジアンテイストのおしゃれなダイニングバーがあった。
今日は菜月が私のために用意してくれた合コンの日だ。私は高校の頃から合コンに興味を抱いてこなかったから、これが人生はじめての合コン。
でも、全然気乗りしない。
だって私、今のままで満足してるし。
今まで男性とお付き合いをしたこともあったけれど、その結果、そういうのはしばらくいいかなと結論付けたわけだし。
でも、菜月の誘いを断れなかった。菜月が私のことを心から心配しているのを知っていたから。
別に恋人がいなくても楽しくやっていける時代。大学二年生になって、いよいよ就活も足跡をたてて近づいてきている今、わざわざ合コンなんてしなくてもいいと思うのだけど。
しかたない、今夜だけは盛り上がったふりをしてさっさと帰ろう。
勇気を出してドアを開け、店員さんに名前を伝える。すると店員さんは待ってましたとばかりに私を奥の広間へと案内した。
「あ、里帆! こっちこっちー!」
菜月はこの店で一番大きいテーブルを陣取り、満面の笑みで私を出迎えた。
いるのは菜月、一人だけだった。今日は男性が十三人来ると聞いていたからどれだけの団体さまが待ち受けているかとドキドキしていたけれど、まだ誰も来ていないらしい。
ていうか、二対十三の合コンってなんだよ。
二の側に広瀬すずがいるわけじゃないんだぞ。
「早く早くぅ。もうみなさんお待ちかねだよー」
菜月が急かすように私のバッグをさらい、バスケットに押し込める。
菜月の言葉に、私は慌ててしまった。
「あ、もうみなさんいらっしゃってるの? えっと……トイレとか?」
「ううん、もうみんなここにいるよ。里帆、とりあえず何飲む?」
まわりを見わたした。でもどう見てもテーブル席に人はいなかった。
鞄とか、上着とかも、ない。さっきまで人がいたという痕跡も見当たらなかった。
ただ、各席にちゃんとお冷は置いてあるんだけど。
どういうこと、と言おうとして、菜月が先に口を開いた。
「今日は霊コンだから」
菜月の言葉に、顔を見返す。
「……霊コン?」
「みなさん、お亡くなりになってるの。だから姿は見えないのよね」
「は?」
もう一度席を見わたした。
テーブルから少し引かれた、籐の椅子。よく見ると少しだけ減っているようにも見えるレモン水。
グラスの中の氷が、カラン、と音をたてる。
私はもう一度菜月を振り返った。
「は?」