縋るような瞳で私を見つめる陛下は、あの幼い頃の劉嘉逸のお顔そのものでございました。
陛下は、あの頃から変わっていらっしゃらない。私のことも忘れていらっしゃらない。
突然思わぬ形で皇帝という位についてしまった陛下も、きっと私と同じように色々と思い悩み、一人で苦難を乗り越えようとなさっていたのですね。
「陛下はお一人ではございません。私も陛下のことを命をかけてお支え致しますし、この後宮には同じような妃嬪がたくさんおります。どうか、お一人で全てを背負われませぬよう……」
「何度言わせるのだ! 私は、春麗以外の妃など、どうでもよい。幼い頃より春麗だけを見てきた。皇帝にならなければ、春麗だけを娶って二人で暮らしたものを……」
ご自分で色々とお話なさりながら、恥ずかしそうに頬を染める陛下は、それはそれは可愛らしいのでございます。
「春麗。今まで本当に済まなかった。そなたに冷たく接したのも、一度も私の元に呼ばなかったのも、全て……」
「陛下、分かっております。もうそれ以上は」
「いや、言わせてくれ。今までの仕打ちは全て、私が……どうこうというより、どちらかというと春麗が可愛すぎるのがいけないのだぞ! 幼い頃とは違い、化粧をしているだろう。その襦裙もけしからん。そなたの美しさを引き立ててしまうではないか。私以外の男が春麗を見初めたらどうする気なのだ! そもそも、春麗は自分の美しさに気付いていないところがまず駄目なのだ。それに、そんな状態でそなたを私の閨に呼んだらどうなる。想像するだに恐ろしい。だからそなたは……」
陛下が私をお叱りになる言葉はとどまることを知らず。
そのまま明け方まで、『陛下の本心を語る会』が続いたのでございます。
この呪いをかけたのが一体何者なのか、いまだに分かっておりません。
ですがこの日以降、私、曹春麗は皇帝陛下の寵を一身に受けることとなり、私たちは仲睦まじい夫婦として、後世の史書にも記されることとなったのでございました。
今思えば……ですけれど、皇帝陛下にかけられた呪いは、陛下の本心を知りたくてたまらなかったどこぞの女が、無意識のうちに陛下にかけてしまった呪いかもしれませんね。
そう、例えば、私のような女が。