「……ごめんな、先に言ってしまって」

「恨むよ」

「……悪かった」

「ばーかばーか」

「……吹雪が見えるからやめてくれ、それ」

咲桜と吹雪にそう接点はないはずだが、重なって見えるのが嫌だ。咲桜は、困ったように笑った。

「……いいですよ。言い出すの、少し恥ずかしかったし」

「そうか」

ふと、空いている左手が咲桜の顔の方へ伸びた。

「……大丈夫なのか?」

「なにが?」

「いや……今日は首を覆っていないから」

「あ」

咲桜は自分の首に手をやった。いつもはタートルネックのアンダーシャツを着て、覆っている肌が露出されている。

……母が遺した見えない傷になにかが――言葉すら――触れるのが恐怖で、首筋をさらすことが出来ないでいたという。

「なんかね、大丈夫になったみたい」

咲桜の恐怖心のない笑顔に、正直驚いた。以前そのことを訊いてしまったときは、過呼吸を起こして泣き出すほどだったのに。

「……なにか、あったのか?」

まさか、桃子さんの最後の手紙を読みでもしたのか? まだあれを、在義さんが見せるとは思えないけど……。

「わかんないんだけど、いつの間にか気になんなくなってた。いい傾向かな」

意外と大雑把だった。

けど、確かにそれはいい傾向かもしれない。

「よかったな」

俺からも、笑みを返した。