「当たり前だろ。壁とか樹とかコンクリート塀とか。ストレス発散にはなるけど、怪我するだけだ。適度でやめておけよ」

「……さすがだな、神宮。でもコンクリート塀って」

「それ殴ったのは吹雪。あいつは怪我するどころか破壊してた」

「………春芽こえーな」

てかそれって器物破損だろ。

的確な指摘だ。

「……友情、なのかなー」

天井を見上げて、遙音は呟いた。

「……わかんね」

わからないのは、友情だけに収まりきらないからではないのか。言おうかとも思ったが、遙音は、答えは自分で突き進んでいくタイプだ。下手に周りが手を貸すと、遙音が進んでいる道に寄り道逸れた道を作ることになると、今までのことから知っている。

事件後、親戚に引き取り手がなく施設に入れた、あれは誤算だったと思っている。少しでも早く世間の好奇の瞳から護らねばと、護られる側に立たされた経験のある吹雪や降渡と話したのだが、遙音は俺たちのタイプとは違っていた。

遙音は自立心が強い。だからと言って、当時高校生の自分たちが引き取ることも出来なかったが、もっと方策を考えるべきだった。遙音のための対応策を。そんな経緯があって、俺たちは遙音に対して、親代わりではないが似たような立場の感覚だった。

「そろそろ教室戻った方がいいんじゃないか?」

時計を見遣ると、時間は経っている。遙音は「おー」と返事をして、緩慢に資料室を出て行った。出る直前、少しだけ振り返った。

「じんぐー。末永くお幸せに」

にっと言い残して、扉が閉まる音に消えた。

「………」

一瞬呆気にとられた。遙音にそんなことを言われるなんて思ってもみなかったから。

末永く。咲桜と。

「……当然」

一緒にいるよ。