「……あー、そうだな」
唸り、椅子から立ち上がる。
「急にすまなかった。帰るよ」
「おー。箏子のばあさんに刺されねえように気をつけろよ」
「……善処する」
在義が逃げて来たのは本当だ。現実から。
桃子の生きた唯一の証である娘の生きる現実から、少しだけ目を逸らした。
でも在義が、流夜ならば娘を託してもいいと思ったのもまた現実だった。
なにから逃げることが出来る。
逃げられないものしかないじゃねえか。
逃げるために手放せるものなんて、ない。
在義が慈しんできた娘の選んだ子は、優しい奴だったからな。
メニュー
メニュー
この作品の感想を3つまで選択できます。
読み込み中…