――これが輪廻の果てならば、それもいいのかもしれない。

仲間たち(翔び魚たち)から置いてけぼりにされた少女は笑う。
今では内海(うちうみ)となったかつての湖水を、本能の赴くまま縦横無尽に泳いでいた記憶は、いつの間にか少しばかり薄れてしまっていた。
「ねぇ、お祖母ちゃん。いつものお話をして」
可愛らしい孫の声に、私は振り返る。大きな目をくりくりさせて、期待に溢れている。景色を映すことの無いその瞳は、それでも未来に満ち溢れた視線を送ってくる。
“少女”は孫娘に微笑むと、あの少女期に失った星空の思い出を語った。まるで大切な宝物をそっと、見せるように。
「翔び魚たちは、こうして昔に住んでいた海へと帰って行きました」
おしまい、と孫の頭を撫でる。擽ったそうに目を細める彼女は、いつものように嬉しそうに微笑む。……自分の苦い思い出も、今は誰かの笑顔になっていると思うと、少しだけ報われるような気がした。少女はこのままおやつにしてしまおうと腰を上げる。しかし、立ち上がりかけた腰は孫娘の問いかけに逆戻りしてしまう。
「ねえねえ。なんで女の子は内海で遊ばなかったの?」
「えっ?」
「みんなと遊びたいなら、遊べばいいじゃん!」
きっとみんなも思い出してくれるよと、曇りない笑顔で言われ、少女は考える。……もし、あの時死ぬとわかっていても湖に飛び込んでいれば、彼女の言う通りみんな思い出してくれたかもしれない。――でも。だからこそ。
「私なら、この子と同じことをするかもねぇ。みんなの邪魔は、したくないもの」
「うーん……でも、泳がないなんてもったいないよ!」
「ふふっ。そうかねぇ」
「ぜったいそう!」
大きく手を振って、絶対にと繰り返す孫娘に少女は優しく微笑む。そうかい、と頭を撫でれば嬉しそうに微笑んだ。
しばらくしてはしゃぎにはしゃいだ孫娘が眠ったのを見て、少女は笑う。
「優しい子だねぇ、真偉ちゃんは」
少女はしわくちゃになった手で、そっと孫娘の頭を撫でる。――思い出すのは、一人取り残された幼少期。岸辺を歩いて、何度も何度も仲間たちの帰還を願った日々。でも、少女はそれを一度だって後悔した時はなかった。
――だって、そのお陰で“あの人”に会うことが出来たのだから。

まだ若い頃。パールブルーのワンピースを風になびかせ、私は波が寄せるのを虚ろに見ていた。耐えきれなくなった心は、楽になりたいと何度も叫ぶ。