(そんな事より)
「犯人はどうするんだ?」
「どうするって?」
「いや、だってまだ捕まえてないんだろ? 犯罪者を野放しにしておくのは良くないんじゃないのか?」
今までの話を聞く限り、その犯人は捕まっていないのだろう。警察に話すなり、自分たちの手で捕まえるなりしないと、また繰り返されるんじゃないか。
(いちいちちゅう秋が出て行くのも、なんだかおかしな話に思えるし)
何かいい手はないだろうか。そう考える僕に、探偵少年は少し考える素ぶりをすると「ああ、そんな事か」と軽い声で言う。まるで気にしていなかったと言わんばかりの彼に、僕は眉を寄せる。犯罪者が自分たちの身の回りを回っていたというだけで怖いのに、どうしてそんなにけろっとしていられるのか。
(危機感能力足りてないんじゃないのか?)
「まあ、どうせちゅう秋先輩が手を打ってるだろ! 大丈夫大丈夫!」
「そ、そうなのか?」
「もちろん。抜かりはないよ」
トランシーバーのようなものを手にしたちゅう秋が笑みを浮かべる。彼が電源を入れれば、ノイズ音の後に慌ただしくしている声が複数聞こえる。その中には、聞き覚えのある――けれど、少しだけ以前よりも明瞭な声に、僕はそれが犯人の声である事を察する。
「そろそろ捕まるんじゃないかな」
笑みを浮かべ、さらりとそう告げてくるちゅう秋は、どこか楽しそうで。
(本当にこいつは何考えてるんだか……)
一手先、二手先までもを読む彼の思考に、そろそろ恐怖すら覚えてくる。……彼が陰陽師の見習いであるというのは、本当かもしれない。
抱き合うひがし京と岡名を横目に、僕はため息を吐いた。巻き込まれた挙句、自分の知らないところで終わった一連の出来事。小説のネタになりそうだと思ったけれど、いろいろと難しいかもしれない。設定としては有能だが、それを扱える頭が、僕自身にはないから。
(……疲れた)
はあぁっと吐いた息は、重く床に転がっていく。目の前でお互いを大切そうに抱きしめる彼らに、僕は複雑な心境を持ったまま苦笑いをこぼした。
(終わり良ければ全て良し、か)
人生、きっとそんなものなんだろうな。自分と彼女のことを思い出し、苦い気持ちが込み上げる。謝ったとはいえ、自身も岡名と似たようなことをしたのだ。それはもちろん許される事では無いし、許されていいことでもないと思っている。僕は改めて彼女に謝ろうと心の中で決めた。そして生涯をかけて、彼女の心の傷が少しでも瘉えるように努めようとも。