ちゅう秋の鋭い視線に、岡名は参ったと言わんばかりの声色で頷いた。彼は居心地悪そうに手を握り直し、乱雑に頭を掻く。岡名はちらりと探偵少年を見ると、苦虫を嚙み潰したような顔をする。穏やかな彼の、初めて見た顔だ。
「……探偵くん。君の言う通りだよ。俺は彼女を囮にして復讐を果たそうとした」
「っ、!」
「アンタッ!」
「でも……ずっと一緒に居るうちに、その気持ちも徐々に薄れていってね」
淡々と口にする彼の言葉に、誰かの驚愕の声が聞こえる。それが誰のものかはわからなかったが、彼は続けた。
「復讐なんてほとんど忘れていたんだ。……気づいた時にはもう、俺は真偉の存在を手放せなくなっていたから」
彼の告白に、周囲の空気が止まる。真剣な顔をする岡名に、ひがし京の顔がゆるりと上げられる。しゃくりを繰り返す彼女の頬に、つぅっと涙が流れ落ちた。その雫を、岡名の指先が拭う。
「最初は利用してやろうって思っていたのに、不謹慎かもしれない。でも、今は本気で愛しているんだ」
「っ……」
「本気で、君の為に生きたいと考えている」
真っすぐな視線で。真っすぐな声色で。そう告げる彼に、聞いているこちらまで恥ずかしくなってきてしまう。すぅっと息を吸い込んだ探偵少年の口を咄嗟に塞げば、「んーッ!」とくぐもった声が聞こえる。危ない。もうちょっとで空気が壊れるところだった。
(こいつ、本当に空気読まないな……!)
興味がないからって周りを巻き込むのは違うだろう。
驚いた表情のまま、ぼろぼろと涙を零すひがし京とその涙を拭う岡名を見詰める。まるでドラマでも見ているかのような気分だ。
「そんなの、信じられないわ……っ」
「うん、信じなくてもいいよ。俺が勝手に君に信じて貰えるように努力するから」
「気が向いたとき、時々でも見てくれると嬉しいな」と笑う岡名に、ひがし京の涙の量が増える。数刻前とは打って変わって安堵に包まれた表情をする彼女は、きっともう大丈夫だろう。
(……幸せになれるといいな)
不幸と幸福の量が同じならば、彼女のこの先は全て幸福でみたされているに違いない。ほとんど話したこともないけれど、そう願ってしまうほど目の前の光景は綺麗で美しかった。
「ぷはっ! これで一件落着だな!」
「お前っ、いつの間に!」
「いつの間に、じゃない! 俺の神の言葉を遮った罪は重いぞ!」
僕の腕の中からすり抜けた探偵少年が、怒りに声を荒げる。『みやこ』のメンバーがこちらを見ているが、だからと言って彼を相手にする気は毛頭ない。「ハイハイ」と軽く受け流せば、怒りに目を吊り上げたままフンッと鼻を鳴らす。