まるで夢のようで、けれど感じる体温にこれが現実であると理解する。自分の唇が震えるのがわかる。
「ほ、んとうに……?」
「はい」
しかと頷く彼女に、僕は遅れてやってきた歓喜に息を吸い込んだ。握られた手から伝わる熱が、頬を熱した。――どうやら僕は早とちりをしてしまっていたらしい。
「っ、こちらこそ。一緒にいてくれると、嬉しい……です」
緊張と込み上げる歓喜に心臓が震えるのを感じながら、僕は答えを返した。はにかむ彼女の手を握り、その笑顔を正面から受け止める。久しぶりに正面から見た彼女は、やはりあの時よりもずっと大人びていて――綺麗で。
「……たくさん酷いこと言って悪かった」
「ううん。気にしてない……訳じゃないけど、大丈夫よ」
――だって、これからはちゃんと私を見てくれるんでしょう?
そう言って笑う彼女に、僕は込み上げる羞恥を隠しきれなかった。顔を俯かせる僕に不安そうに語り掛ける彼女の声を聞きつつ、僕は幸せな時間を噛み締める。
波乱で始まった三連休は、僕たちを率いて少しずつ時間を進めていく。幸せで嬉し恥ずかしい時間は、まだ始まったばかりである。

「先輩、上手くいったんすね」
「は?」
唐突に言われた言葉に、僕は動きを止める。箸ですくった卵焼きがするりと落ちるのを感じ、慌てて振り返れば弁当箱の縁に寄りかかっていた。危ない、もう少しで大切なエネルギー源を無くしてしまうところだった。
(なんだかデジャヴだな)
いや、そんなことより。
「と、唐突になんだよ」
「はははっ! 先輩わっかりやす過ぎ!」
「う、うるさいっ!」
悪かったな、正直もので!
ケラケラと笑う探偵少年に、僕は恥ずかしさに声を荒らげる。先輩に対する態度では絶対に無いものの、それを叱る余裕は無い。
(なんでバレるんだよ……!)
確かに、わかりやすいのも、ちゅう秋のように隠し事が美味いわけでもないけれど。それでも会って顔を見合わせただけでバレたのは、二回目だ。一回目はもちろんちゅう秋である。恋心を自覚した瞬間、バレた。
「相変わらずわかりやすいな、あんた!」
「あんたって言うな、馬鹿探偵」
「馬鹿じゃない! “名・探・偵”だ!」
「どっちでもいいよ、そんなこと」
熱くなる頬を隠すように声を荒らげる。
「そんな態度とっても、俺は誤魔化されねーからな!」
「ちっ」
ビシッと指を向けられ、そう吠えられる。つい零れた舌打ちは、興奮しきってる彼には届かなかったようで。僕は忌々しげに彼を見つめる。