にこにこと笑みを浮かべるちゅう秋に、適当にあしらわれたのはどうやら間違いではないようだ。コーヒーを優雅に飲む彼は、きっと嘘がバレてもどうでも良いのだろう。彼にとって話題を変えることが重要なのだから。
(こいつに聞いたのが馬鹿だったな……)
はあとため息を吐いて、僕はプリンを頬張った。もうこうなったら自棄だ。
「へえ。お前、陰陽師だったのか」
「そうだよ。知らなかっただろう?」
「まあな」
(いや、知るわけないだろ)
上機嫌に頬杖を付いて笑うちゅう秋に、僕は言いかけた言葉を飲み込む。そもそも、本当に信じているわけじゃないのにどんな反応をすればいいのか。
(というかそもそも陰陽師って何をする仕事なんだ……?)
お祓い? 結界とか張っているのだろうか。あと、よく聞くのは式神を操ったり、妖怪と契約して従えたり。……現実で考えると難しいな。
(小説のネタなら、いくらでも出てくるんだけど)
「探偵くんは、陰陽師を知っているのかい?」
ふと、ちゅう秋の矛先が変わる。ずっと甘味に舌鼓を打っていた探偵少年は、突然の問い掛けに少しばかり驚いていた。スプーンを口元に当て、こてりと首を傾げる彼。その仕草は顔の良さも相まって、どこかモデルの写真カットのようにも見える。彼は数秒考えるように宙を見つめると、「まあ」と呟いた。
「よく見かけるな。といっても、ほとんどが前世だけど」
「え?」
「つっても、そんなに珍しい職業でもないだろ?」
もぐもぐといつの間にか頼んでいたらしいチョコレートケーキを食べながら、彼は平然と告げる。その表情はけろっとしたもので。
(珍しい職業でもないって)
いやいやいや。こいつは一体何を言っているんだ。よく見かける? 見かけないだろ、普通。それに前世って何だ。前世何てあるわけが……いや、でもないとも言い切れない。
(って! そうじゃなくって!)
僕は沈みそうになる思考を必死に引き上げる。自棄になったところでそれすらも目の前の二人は超えてくるのだから、きっと諦めなんて無駄なのだろう。
「前世って、どういうことだよ」
「前世は前世だ。だいたいの人間が持ってるもんだろ」
(駄目だ。何もわからん)
当然だと言わんばかりの表情に、僕はもうお手上げだ。説明して欲しいと思う反面、きっと説明されても何もわからないのだろう。それだけは何となくわかる。
「探偵くん。君、もしかして何か知っているのかい?」
「ふんっ、当然だろう!」
「俺を誰だと思っている!」と堂々と胸を張る探偵少年。ちゅう秋は少しばかり目を見開くと、「情報提供をお願いしてもいいかな」と真剣な顔で伝えた。