「それより、なんか用かよ」
「それよりって何よ! 折角先生が呼んでるの伝えに来てあげたのにっ」
「馬鹿、それを早く言えっ!」
バッと勢いよく立ち上がった少年は、食べかけだったパンを大急ぎで口に突っ込むと走り出した。「先輩ごめん!」と言っていたような気がするが、モゴモゴとしているばかりで全く聞き取れなかった。
(僕も、食べ終わったら戻るか)
「……」
「……」
「……何?」
「いーえ? なんでも」
じっと見つめてくる女子生徒に、僕は視線を向ける。用事は終わったはずなのに、どうしてまだここにいるのか。他にも用事があるのか、それとも僕に何か言いたいことがあるのか。後者だとしたら、どうせ文句か何かだろう。……怖い。僕何かしたっけ。
「先輩って、あいつといつ仲良くなったんですか?」
「……えっ」
満面の笑みのままそう問いかける彼女に、僕は息を飲む。──やっぱり来たか。
「……僕は何もしてないぞ」
「そんなことは知ってますー」
「じゃあ、なんでそんなこと……」
「それはですねぇ」
くふくふと含み笑いをする彼女に、僕は堪らず身構える。どんなことを言われても挫けないぞと言わんばかりに。
「あいつ、凄い変人じゃないですか」
「……うん?」
「でも、先輩はそんな感じしないなって思って。だから、どうやって仲良くなったのか気になっちゃったんです」
ふふっと楽しそうに笑う少女。その視線の奥に、僅かな嫉妬が隠れているのに気が付かないほど、鈍感では無い。
(……なるほどな)
彼女はきっと一緒にいる僕に嫉妬しているのだろう。──探偵少年が好きだから。それが恋心なのか、友情なのかは分からないけれど。
「僕は何もしてないよ。あいつが勝手についてきてるだけだ」
「……へぇ。そうなんですね」
「……本当だって」
「別に疑ってませんよー」
(嘘つけ。全然納得してないじゃないか)
まったく笑っていない目に、僕は頭を抱えたくなる。どうしてこうもあの男はトラブルばかりを呼ぶのか。
(僕、全然関係ないだろうが)
「……ちなみに私のこと、あいつから何か聞いたりしました?」
「何って、何?」
「そりゃあ……いろんなことですよっ」
ふいっと逸らされる視線。ほんのりと赤い頬は、彼女が確実にあの男に恋慕を抱いていることを物語っていた。
(どう答えたものかなぁ)
──事実、彼から少女のことは一切聞いた事がない。それどころか、この前の大学のことですら説明ひとつ聞いていないのだ。つまり、僕が知っている彼の情報などたかが知れているわけで。
「……いい子だって言ってたぞ」
「うそ。あいつがそんなこと言うわけないじゃん。で? 本当は?」
「……何も聞いてないよ」
「あは、やっぱり?」