「送ってくれてありがとうございます」
「気にしないで。それじゃあ」
「はい……また、明日」
「うん?」
「いえ。何でもないです」
ふわりと微笑む紀偉に、岡名は今度は疑問を持つこともなくひらりと手を振って去ってしまった。その背中を、紀偉は寂しそうに見送る。自分の気持ちが伝わらないもどかしさというのは、こんなにつらいのだと。
「……真偉に教えてあげたいくらいだわ」
――嗚呼、あの子が羨ましくて、堪らない。

「調べてみたんだ」
「何を?」
「レイクズジャンピングフィッシュについて」
「……ああ、あの事か」
ちゅう秋の言葉に一瞬思考が停止した僕は、思い出した出来事に声を上げる。持っていたペンが変な軌道を描いたが、素知らぬふりをして再びペンを持ち直す。目の前に広がるのは連休中の課題で、僕はそれを終わらせにちゅう秋の家に来ていたのだが、突然なんだ。
――あの雨の日の出来事は、結局意味がわからないまま今に至っている。彼女が何を伝えたかったのか。何を言いたかったのか。それを平日の短い時間で知ることは、出来なかった。結果、答えを保留にしたまま、僕はこうして勉学に励んでいるわけなのだが。それも今で一旦終わりを告げたらしい。ちゅう秋が完全にペンを置いて話す体制になっているのを見て、僕もそれに伴う。用意されたお茶を一口啜れば、緑茶の風味が一気に口の中に広がって行った。
「それで? 何かわかったのかい?」
「もちろん」
頷く彼の声が、出来事を話し始める。――ちゅう秋曰く、あの時聞こえた声は別のモノの声だったらしい。悪戯をするにしても、その頻度が少ない上にどこか悪戯の系統が違うことに違和感を覚えていたらしい。
「こっくりさんをしていたのは、京朝紀さんだ」
「えっ、そうなの?」
「ああ、ちゃんと本人が証言していたよ」
何でも、ひがし京が嫌がらせを受けているのを見て、守ろうとしたのだとか。しかし、何を思ったのかちやほやされている彼女への嫉妬心が湧いてきてしまったらしい。つい出来心で指を置いているコインを自分の思い通りに動かしてしまい、降霊術は変貌してしまった。結果、帰し方もわからなくなり、気が付けば周囲で悪戯のようなことが多発してしまっているのだとか。それが、偶然その場にいた悪いモノと合体して、徐々に大きくなっていっているらしい。
僕はその一連の事を聞き、首を傾げる。
「なあ、どうしてそれをちゅう秋が知ってるんだ? そんなの、仲間内でも言わないとわからないはずだろ?」
――そう。そうなのだ。ちゅう秋はまるで自分が見て来たかのように、事件の内容を話している。気にならないわけがない。しかし、彼は軽快に笑う。
「ははっ。それは企業秘密さ」