「それじゃあ、今度お泊りしよっか」
「ほんとう? いいの?」
「うん。約束」
「やくそく……」
差し出される小指をじっと見つめ、ゆっくりと自身の指を絡める。静かな二人の空間に、小さな指切りげんまんが流れる。小さく歌う自分たちの声は、二人にとって大切なもので。二人の秘密の憩いの時間は、世界を置いて静かに過ぎていく。
真偉と朝紀が二人の時間を過ごして居る中、岡名は仕事からの帰り道を歩いていた。
「岡名さん」
「紀偉ちゃん?」
ふと聞こえた聞き慣れた声に振り返れば、見知った顔が見える。フランス人形のように大きな目を携えた女性は、怪奇現象執筆サークル『みやこ』のメンバーの一人、みなみ京こと、紀偉だった。どうして彼女がここに居るのかはわからなかったが、鞄を手に立っているところを見ると誰かとの待ち合わせだったのかもしれない。笑顔で駆け寄って来る紀偉に、笑みを浮かべる。
「こんにちは。誰かと待ち合わせかい?」
「ううん。岡名さんを待っていたの」
「俺を?」
「ええ」
コクリと頷く彼女に、岡名は瞬きを繰り返す。時折こんな感じで帰り道に遭遇することはあったけれど、全て偶然だったから今日みたいに待っているのはとても珍しかった。
「えっと、何か用事でもあった?」
「特にないわ。――無いけど、会いたかったから」
ふわりと笑みを浮かべる彼女に、岡名は首を傾げる。自分なんかにお世辞を言って何の得が彼女にあるのだろうか、と。
「そっか」
「ええ。一緒に帰っても?」
「もちろん。真偉たちの話も聞かせておくれ」
彼女の問いに頷けば、微妙な表情が返される。すぐさまどうしたのかと問いかけたが、「何でもない」と言われてしまう。いつもとどこか違う雰囲気に疑問を感じながらも、並んで帰路を歩いていく。他愛もない話に花を咲かせていれば、ふと、彼女の足が止まった。
「ねえ、岡名さん」
「どうしたんだい?」
「左腕でお手をするから、私のデコルテを掻いてくれませんか?」
「?」
彼女の言葉に、思考が止まる。……正直、彼女が何を言っているのか、岡名にはよくわからなかったのだ。頬を染め、こちらを見上げる紀偉に岡名は当然理解できない焦りを感じるが、彼女はそんな岡名を見て微笑んでいる。
「えっと、ごめんね。もう一度言ってくれる?」
「ふふっ。冗談です」
笑みを浮かべ、そう言う彼女。怒っていないその表情に、岡名は心底安堵した。帰りましょう、と言って歩き始めた彼女の背を追いかける。再び交わされる他愛もない話は、最初は少しぎこちなかったものの、少しすればすぐに元通りになっていく。
「ほんとう? いいの?」
「うん。約束」
「やくそく……」
差し出される小指をじっと見つめ、ゆっくりと自身の指を絡める。静かな二人の空間に、小さな指切りげんまんが流れる。小さく歌う自分たちの声は、二人にとって大切なもので。二人の秘密の憩いの時間は、世界を置いて静かに過ぎていく。
真偉と朝紀が二人の時間を過ごして居る中、岡名は仕事からの帰り道を歩いていた。
「岡名さん」
「紀偉ちゃん?」
ふと聞こえた聞き慣れた声に振り返れば、見知った顔が見える。フランス人形のように大きな目を携えた女性は、怪奇現象執筆サークル『みやこ』のメンバーの一人、みなみ京こと、紀偉だった。どうして彼女がここに居るのかはわからなかったが、鞄を手に立っているところを見ると誰かとの待ち合わせだったのかもしれない。笑顔で駆け寄って来る紀偉に、笑みを浮かべる。
「こんにちは。誰かと待ち合わせかい?」
「ううん。岡名さんを待っていたの」
「俺を?」
「ええ」
コクリと頷く彼女に、岡名は瞬きを繰り返す。時折こんな感じで帰り道に遭遇することはあったけれど、全て偶然だったから今日みたいに待っているのはとても珍しかった。
「えっと、何か用事でもあった?」
「特にないわ。――無いけど、会いたかったから」
ふわりと笑みを浮かべる彼女に、岡名は首を傾げる。自分なんかにお世辞を言って何の得が彼女にあるのだろうか、と。
「そっか」
「ええ。一緒に帰っても?」
「もちろん。真偉たちの話も聞かせておくれ」
彼女の問いに頷けば、微妙な表情が返される。すぐさまどうしたのかと問いかけたが、「何でもない」と言われてしまう。いつもとどこか違う雰囲気に疑問を感じながらも、並んで帰路を歩いていく。他愛もない話に花を咲かせていれば、ふと、彼女の足が止まった。
「ねえ、岡名さん」
「どうしたんだい?」
「左腕でお手をするから、私のデコルテを掻いてくれませんか?」
「?」
彼女の言葉に、思考が止まる。……正直、彼女が何を言っているのか、岡名にはよくわからなかったのだ。頬を染め、こちらを見上げる紀偉に岡名は当然理解できない焦りを感じるが、彼女はそんな岡名を見て微笑んでいる。
「えっと、ごめんね。もう一度言ってくれる?」
「ふふっ。冗談です」
笑みを浮かべ、そう言う彼女。怒っていないその表情に、岡名は心底安堵した。帰りましょう、と言って歩き始めた彼女の背を追いかける。再び交わされる他愛もない話は、最初は少しぎこちなかったものの、少しすればすぐに元通りになっていく。