ひがし京の言葉を受け、ちゅう秋は考えこむ様に顎の下へと手を当てる。思考の海に沈んでいく彼は、こうなってしまったが最後。考えがまとまるまで微動だにしない事を、僕は良く知っている。
(これじゃあ本当に僕の出番はないかもしれないな)
ひがし京の話を聞いて、僕はそう思う。人為的なものならともかく、霊の悪戯となれば一般人が手を出せるようなものではないだろう。それどころか、探偵である目の前の少年すら、今回はお役御免になるかもしれない。そんな少年は難しい顔をしつつ、黙って話を聞いている。しかし、その仕草に諦めた様子は微塵も感じないのが気になる。
「その、レイク、レイ……ピングッシュっていうのは、そもそもこっくりさんと関係があるのか? その辺も調べはついているのか?」
「それは、もちろん」
「結果は?」
「……関係ない、という他ないわ」
少年の問い掛けに、ふるりと彼女が首を振る。岡名と合わせた手が少し震えていたが、僕は見ないふりをすることにした。それよりも探偵少年の呂律の悪さのほうが気がかりで、探偵少年をじっと見つめる。
(全っ然、言えていないじゃないか!)
――レイクズジャンピングフィッシュだ、レイクズジャンピングフィッシュ。新しいジュースの名前みたいな言い方をするんじゃない。
「なるほど。つまり、僕に課せられたのは、こっくりさんをした後、それに便乗した悪い奴を特定することだな!」
「え、ええ。たぶん……」
「そうと決まれば、俺に任せろ! 絶対に捕まえてやる! なんと言っても、俺は神だからな!」
「必ずや犯人を捕まえて御覧に入れましょう!」と意気揚々と話す彼から、僕はもうなにも言うまいと視線を逸らした。押され気味のひがし京には悪いが、もう僕は彼のテンションの高い説明を聞いているだけでお腹いっぱいなのだ。少年のクセの強い言動を抑える力は、残念ながらもう残っていない。
(……とりあえず、僕は帰っていいかな)
犯人探しから幽霊騒動にまで発展した一連の事件内容を聞き終えた僕は、遠い目で会場のライトを見上げた。やっぱり僕の出番はどこにもなかったようだ。見事なまでのシャンデリアが煌々と室内を照らしている。時間は八時を丁度お知らせした頃だった。

帰り道。暗くなった空を見上げながら、先輩が問いかけてくる。
「で。犯人の目途は付いているのか?」
「全然?」
「あ?」
威圧感のある声に、俺は首を傾げる。先輩は顔を顰めると、信じられないとばかりの顔を向けてくる。だが、俺はそれがよくわからなかった。寧ろどうしてそんな当然のことを聞くのか、甚だ俺には理解が出来ない。