「でも大学までは自分の足で行ったんだろう?」
「……そりゃあ、まあ」
「だったら君も少なからず楽しみにしていたんだろう」
ふふっと笑みを浮かべる彼に、複雑な心境が込み上げてくる。……何故だろう。彼に話せば話すだけボロが出そうだ。僕は広げた宿題に鉛筆を押し当て、ぐりぐりと円を描くように動かす。バツが悪くなって現実逃避をする時の僕の癖だった。
「そんな事はどうだっていいだろ。それより、その招待状、どう思う?」
「はて。どう、とは?」
「わかって言ってるだろ」
「ははっ。すまないすまない、君がこういったものを疑うのは珍しいと思って」
彼の言葉に、僕ははたと全ての動きを止める。
(そう、だろうか)
……確かに。言われてみれば自分はこういったものに疑問を持ったことは、そうなかったかもしれない。約束の日時が書かれた手紙や日頃の感謝の手紙なんかも貰ったことは幾度となくあるが、今回のように違和感を覚えた事はないと記憶している。
僕はじっとちゅう秋の持つ真っ白な封筒を見つめ、眉間に皺を寄せる。……やっぱり、なんか気になる。
「怪しいだろ、なんか」
「それは直感かい?」
「そうかもしれないな」
「理屈屋な君がこれまた珍しい」
「うるさい」
彼の面白いと言わんばかりの声に、とげとげしい声を返す。人の変化を面白がるんじゃない。
僕は構っていられないと彼から封筒を取り上げると、開いている封を再び開け、中身を取り出した。そこには封筒と同じ白い紙に黒いペンで書かれた、綺麗な文字が並んでいる。

『拝啓、ご友人の皆様。
この度、私、岡名と京真偉の結婚が正式に決まりました。その為、友人の皆様には今まで支えてくださったお礼に、ささやかですがパーティーを開催しようと思っています。着きましては、参加の可否を岡名にご一報いただけますと幸いです。連絡先は――』

続く文には岡名のものらしき連絡先と、会場の場所、日時が書かれている。会場はそういった事に明るくない僕でも知っているほど大きな場所で、彼等が上流階級の人間であることをまざまざと見せつけられているような気分になる。
(まあ、そう思う僕がひねくれているだけなんだろうけど)
「凄いな。ここら一帯で一番いい会場じゃないか」
「そうなのか?」
「ああ。俺も一回しか行ったことがない」
(一回でもあるのかよ)
出かけた言葉を、咄嗟に飲み込んだ自分は偉いと思う。少し乱雑に折り目に沿って手紙を戻した僕は、封筒に紙を突っ込むとちゅう秋に差し出した。驚いた顔をする彼に、僕は告げる。