聞き捨てならないちゅう秋の言葉に僕は牙を剥いたが、同時に探偵少年が嬉しそうに微笑んだことで答えは二分してしまった。驚いて振り返れば、同様に驚いた目をした探偵少年と目が合う。
「なんで否定するんだ!」
「当然だろ。仲良くなった覚えないし」
「そうなのか!?」
ギョッとする少年に、今度は違う意味で驚いた。──まさか仲良くなっていると思っていたのか。こちらはほとんど巻き込まれているだけだというのに。
(どこでどう勘違いしたのやら)
僕には不思議でたまらない。
「まあまあ。彼は少し特殊だからね。仲良くなったと知覚するのに時間がかかるタイプなんだ」
「へえ」
「おいっ! 変な事言うなよ!」
「本当の事じゃないか」
面白いと言わんばかりに笑みを浮かべるちゅう秋に、僕は目を釣り上げる。一体どうしてそんな話になったのか。彼は話を誇張させる癖がある。
(確かに僕は友たちが少ないけれど……)
でも、それとこれとは関係が無いはずだ。僕はちゅう秋を睨みつけると、彼は心底可笑しそうに笑う。その表情に自分が相手されていないことを、何となく察してしまう。
「馬鹿にするなよな」
「してないさ。慎重深いほうが、友人として安心だからね」
「なんだそれ」
ちゅう秋の言い分に、堪らず笑みが浮かぶ。彼の考えることというのは、いつも独特で僕には及ばないことばかりだ。
「……」
「どうした、探偵少年。男が不貞腐れても可愛くないぞ」
「別に。なんでもない」
フィッと線を逸らす少年。その表情は、まるで仲間外れにされた事を気にしている様子で。
(変なところでガキっぽいんだよなぁ)
まあ、そういうところが憎めないところなのかもしれない。だから、こうして昼食に後輩である彼が自然と紛れ込んでいるのも、特に気にならないのだろう。僕は唐揚げを頬張りつつ、探偵少年を見る。味気のないコッペパンを頬張る彼の手元には、まだあんぱんやクリームパンが一つずつ握られていた。
(……よく食べるなあ)
「探偵くんは今日も購買かい?」
「ん? まあな!」
「よく金がもつよなぁ。羨ましいや」
「よく言うよ。君はその分本を買っているじゃないか」
「そりゃあまあ、そうだけど。でもたまには購買のパンをたらふく食べるのもいいだろ?」
ちゅう秋の言葉にバツが悪くなりながらも、僕は告げる。同じく毎日弁当を持ってきている彼は、「なるほどね」と笑みを浮かべる。……確かに、同じ弁当とはいえ、妻と呼ぶ彼女に作ってきて貰っている彼と僕とでは大きな差があるかもしれないけれど。
「まあ、父さんも母さんも忙しいからな」
「そうなのか?」