(……僕がしっかりしないと!)
こいつらいつかしでかしそうで、放っておく方が恐ろしい。僕は痛む頭を抑えながら、どうにかこの二人を説得する方法を考える。そんな僕を余所に盛り上がる二人は、いかにして大学へ侵入するかを画策している。
「門は飛び越えるのがカッコイイ!」
「いやいや、門番の目を盗みながら入っていくのもスリルがあっていいと思わないかい?」
「た、確かに……!」
「普通に許可取ればいいだろ」
駄目だ。これ以上この二人を自由にさせるのは危険すぎる。
(とはいえ、二人とも行く気満々だしな……)
どうにか大学に行かないで納得する方法はないだろうか。否、もし行くとしても出来るだけ穏便に行くことは出来ないだろうか。
「そういえば、岡名さんはよく大学に出入りしているんですよね?」
「うん? ああ、そうだね」
「どうやって入ってるんですか?」
僕の問いかけに、岡名は数秒間首を傾げると「あっ」と声を上げた。……どうやら自分がやっている方法を使おうとは、思い浮かばなかったようだ。
「もし何か言われるようでしたら、大学の見学とでも言えばいいでしょう」
(それなら穏便に済むだろうし、何より変な行動をとる必要も無くなる!)
一石二鳥だ、と内心ガッツポーズをとる。やることが決まったのが良かったのか、更なる盛り上がりを見せる二人に僕は安堵に息を吐く。向かう大学は一つ駅を飛ばした、二つ隣の町にあったはず。
(そう遠くないし、小遣いでも何とかなるだろう)
僕は財布の中身を思い出しながら、減ってしまう小遣いに眉を寄せた。……当分、新しい本は買えないかもしれない。そんな僕の心情に気づかず、二人はわいわいと楽しそうに当日の予定を話している。全ての元凶でもある探偵少年を見つめ、僕は大きなため息を吐いた。

「なんでここに君がいるんだい?」
「いたらダメなのか?」
「そういう訳では無いけれど」
苦笑いを浮かべる彼に、僕は箸で掴んだ卵焼きを頬張る。だしの味が広がるのを堪能しつつ、僕は空を見上げる。嗚呼、何て広く、青い空だ。
「そいつには何言っても無駄だぞ、ちゅう秋。僕が証人だ」
「何だって⁉ そんな事ないぞ!」
「本当のことじゃないか」
声を荒らげる探偵少年に見向きもせず、僕は母の作ってくれた弁当に舌鼓を打つ。うん、今日も美味しい。これで横で騒ぎ立てる人間さえいなければ、もっと美味いだろうに。
「聞いてないだろ!」
「聞いてる聞いてる」
きゃんきゃんと騒ぐ彼は、まるで近所のよく吠える犬みたいだ。小さくて可愛らしいコーギーを思い出しながら、僕はそ知らぬふりを突き通す。
「ふふっ。相変わらず仲がいいね」
「よくない!」
「もちろんだ!」