【タイトル】
第35話 【闇勇者SIDE】見苦しい言い訳を並べる
【公開状態】
下書き
【作成日時】
2022-10-15 10:30:54(+09:00)
【更新日時】
2022-10-16 10:37:29(+09:00)
【文字数】
2,849文字
【本文(118行)】
……さて。ここまでの出来事を振り返ろう。エルフの国を侵攻しに行った僕ではあるが、そこで思わぬ妨害にあった。
そう、あのカゲトとかいうモブキャラ。それから剣聖エステル。そして、恐らくはエルフ国のお姫様だ。多分、魔法が使えるから賢者か何かの職業(ジョブ)についているのだろう。
この三人と僕は交戦する事になったのだ。当然のように、この最強である僕は楽勝のままににこの三人を倒すと思っていたのだ。……だが。
窮鼠猫を噛むとは良く言ったものだ。追い詰められた三人はとてつもない力を発揮し、僕に嚙みついてきたのだ。
このまま闘っても、最強である僕が闘うのは必然と言えた。
……だが、頭の良い僕にはいくつかの考えがよぎった。もしかしたら相手はまだ手の内を見せていないかもしれない。このまま闘えば、僕に天文学的ではあるが、僅かばかりの敗北の可能性があるのではないか? このまま闘うのはまずいのではないか。
そう思った僕は『戦略的退却』をしたのだ。『戦略的退却』な。
決して、『逃げた』ではない。『逃げた』ではない。人聞き悪いので、決して『逃げた』なんて思わないでくれよな。頼むよ。
こうして、僕は仕方なく、魔王軍の陣営へと戻ってきたのだ。
そこには僕の上司的な立場である、魔王軍四天王の一人アスタロトと、闇の女神ネメシスの姿があったのだ。
「あっ! 帰ってきた! 帰ってきた! 闇勇者が帰ってきたよ!」
闇の女神ネメシスが嬉しそうに跳ねた。まるで女童(めわらわ)のようで、無邪気だ。
「ふっ……帰ってきたな。それでどうなのだ? 首尾の方は?」
アスタロトが微笑みながら僕に問いかけてくる。期待しているのだろう。間違いなく。
「あのー……そのー……えーと……自信満々で一人で突撃していって、こんな事言うのは凄い気が引けるんですけど……」
僕はもじもじとした、弱気な仕草をした。僕はうつむいたまま告げる。
「なんだ? たどたどしい態度で……それでどうなったのだ? 端的に結果を語るが良い。戦場では一分、一秒が命取りになるのだぞ」
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
僕はくそデカい溜息を吐いた。どうやら観念するしかないようだ。
「す、すみません……デカい口利いて、出て行ったのに、すみませんでした……エルフの国の攻略は失敗しました」
僕は涙ながらに報告する。まさかこんな情けない事になるなんて、僕は思ってもいなかったのだ。
「な、なんだと! 何があったのだ! 闇勇者ハヤトよ! お前の口振りは確かに尊大ではあった! だが、決してお前に力がないはずはなかったとは思えない! この闇の女神ネメシスが授けた力は本物だったはずだ!」
アスタロトは衝撃を受けているようだ。無理もない。『戦略的退却』をしてきた僕でさえ、未だに信じられないのだから。
「そ、それがですね……思わぬ、邪魔立てが入ったんですよ。普通のエルフ軍だけなら、僕に敵うはずがなかったんです。だが、予想外の人物が現れた。そう、本来、勇者である僕が貰うはずだったスキルを受け継いだ、あの名もなきモブキャラ——カゲトが徒党を組んで、僕の覇道の邪魔をしてきたんです」
「なんだと……勇者が本来受け継ぐはずだったスキルを備えた者が現れたのか」
「ええ……そいつは勿論、そこそこ強かったんですが。そいつとパーティーを組んでいる女二人もそこそこ強かったんですよ。まあ、そのまま闘い続ければ、99%僕が勝ったんですけど、やっぱり万が一って言うのはあるじゃないですか。相手はどんな切り札を用意してきたか、わかったものじゃない。そこで賢明な僕はプライドをかなぐり捨てて、『戦略的退却』をしてきたんですよ。それで今に至る、ってわけです。わかりましたか? アスタロト様」
僕は長々と言い訳をした。我ながら見苦しかった。だが、致し方ない。そうでもしないとこの場に居られなかったのだ。
「貴様は、勝てそうな相手に万が一でも足元を掬われるのが嫌で、逃げ帰ってきたというわけか? 多少手強そうな相手を目の前にしただけで、恐れ逃げ帰ってきたと!?」
「だ、だから! 人聞き悪いなぁ! 『戦略的退却』! 『戦略的退却』って言ってるじゃないですか!」
――と、その時であった。
「アスタロト様!」
「……なんだ?」
魔族兵が僕達のところへとやってきた。随分と慌てた様子だった。また何かあったようだ。
「先日、人間の国であるエスティーゼ王国へと我が魔王軍は侵攻を始めたのですが、戦況はあまり芳しくないようです。援軍を送ってくれないかと、申請が来ております」
「……そうか。援軍か」
アスタロトは思い悩む。
「良いだろう。闇勇者ハヤト。この度の敵前逃亡、許そうではないか」
「どうしたの? アスタロトちゃん。随分と優しいね」
闇の女神ネメシスは驚いたような表情を浮かべる。
「確かに、この闇勇者ハヤトはエルフの国を攻め落とす事はできなかった。だが、エルフの軍の大半を滅ぼし、エルフ国に大きな痛手を与えた事に間違いはない。今、エルフ国は半ば壊滅状態だ。戦況は間違いなく好転している。そして、今の戦況にこの闇勇者が大きく貢献したのも間違いのない事実だ」
「アスタロト様! さ、流石です。流石、器が大きいお方です」
僕はアスタロトを崇めた。
「そして闇勇者ハヤトよ。貴様に汚名返上のチャンスをやろうではないか。私と二人で王国の戦線に援軍へと向かうぞ。王国を攻め落とすのだ」
エスティーゼ王国。忘れるはずもない国の名だ。僕はその国で召喚されたのだ。そして、僕はそこでろくでもない仕打ちを受けたんだ。不運にも何のチートスキルも授からなかった僕はあの王国を追い出されたのだ。
あの時の恨み、忘れるはずもなかった。これは僕はチャンスだと思ったのだ。積年の恨みを晴らすチャンス。
「も、勿論です! アスタロト様! 援軍に向かわせてください! 今度こそ僕の力で王国を攻め滅ぼしてみせます!」
「まあ、待つが良い。そう、勇むな。今度は私も一緒に行こうではないか。戦いというものは決して慢心してはならぬ。万全を期さねばならぬのだ」
仕方がない。ここはアスタロトの言う事を聞いておくか。一度痛い目に合ったのは事実だ。
「わーい! わーい! 私も行く! 私も行く!」
闇の女神ネメシスが嬉しそうに飛び跳ねる。
「ピクニックに行くわけではないのだぞ。ネメシスよ。喜んで飛び跳ねるではない。我々はこれから戦争に向かうんだぞ」
「そんなのわかってるよ、アスタロトちゃん!」
「だから『ちゃん』付けはよせ。威厳がなくなるだろうが。全く、学習能力のない奴だな。これ程言ってもわからんとは……」
アスタロトは深い溜息を吐いた。
「それでは早速向かおうか! エスティーゼ王国へ」
こうして僕達三人はエスティーゼ王国へと向かった。
当然のように、あのカゲト達も僕達の侵攻を黙って見ているはずがないだろう。
そして、僕達は再び刃を交える事になるのだ。
エスティーゼ王国で行われる抗争はエルフの国で行われたそれよりも、ずっと激しいものになるに違いない。
そんな予感を僕は抱いていた。
第35話 【闇勇者SIDE】見苦しい言い訳を並べる
【公開状態】
下書き
【作成日時】
2022-10-15 10:30:54(+09:00)
【更新日時】
2022-10-16 10:37:29(+09:00)
【文字数】
2,849文字
【本文(118行)】
……さて。ここまでの出来事を振り返ろう。エルフの国を侵攻しに行った僕ではあるが、そこで思わぬ妨害にあった。
そう、あのカゲトとかいうモブキャラ。それから剣聖エステル。そして、恐らくはエルフ国のお姫様だ。多分、魔法が使えるから賢者か何かの職業(ジョブ)についているのだろう。
この三人と僕は交戦する事になったのだ。当然のように、この最強である僕は楽勝のままににこの三人を倒すと思っていたのだ。……だが。
窮鼠猫を噛むとは良く言ったものだ。追い詰められた三人はとてつもない力を発揮し、僕に嚙みついてきたのだ。
このまま闘っても、最強である僕が闘うのは必然と言えた。
……だが、頭の良い僕にはいくつかの考えがよぎった。もしかしたら相手はまだ手の内を見せていないかもしれない。このまま闘えば、僕に天文学的ではあるが、僅かばかりの敗北の可能性があるのではないか? このまま闘うのはまずいのではないか。
そう思った僕は『戦略的退却』をしたのだ。『戦略的退却』な。
決して、『逃げた』ではない。『逃げた』ではない。人聞き悪いので、決して『逃げた』なんて思わないでくれよな。頼むよ。
こうして、僕は仕方なく、魔王軍の陣営へと戻ってきたのだ。
そこには僕の上司的な立場である、魔王軍四天王の一人アスタロトと、闇の女神ネメシスの姿があったのだ。
「あっ! 帰ってきた! 帰ってきた! 闇勇者が帰ってきたよ!」
闇の女神ネメシスが嬉しそうに跳ねた。まるで女童(めわらわ)のようで、無邪気だ。
「ふっ……帰ってきたな。それでどうなのだ? 首尾の方は?」
アスタロトが微笑みながら僕に問いかけてくる。期待しているのだろう。間違いなく。
「あのー……そのー……えーと……自信満々で一人で突撃していって、こんな事言うのは凄い気が引けるんですけど……」
僕はもじもじとした、弱気な仕草をした。僕はうつむいたまま告げる。
「なんだ? たどたどしい態度で……それでどうなったのだ? 端的に結果を語るが良い。戦場では一分、一秒が命取りになるのだぞ」
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
僕はくそデカい溜息を吐いた。どうやら観念するしかないようだ。
「す、すみません……デカい口利いて、出て行ったのに、すみませんでした……エルフの国の攻略は失敗しました」
僕は涙ながらに報告する。まさかこんな情けない事になるなんて、僕は思ってもいなかったのだ。
「な、なんだと! 何があったのだ! 闇勇者ハヤトよ! お前の口振りは確かに尊大ではあった! だが、決してお前に力がないはずはなかったとは思えない! この闇の女神ネメシスが授けた力は本物だったはずだ!」
アスタロトは衝撃を受けているようだ。無理もない。『戦略的退却』をしてきた僕でさえ、未だに信じられないのだから。
「そ、それがですね……思わぬ、邪魔立てが入ったんですよ。普通のエルフ軍だけなら、僕に敵うはずがなかったんです。だが、予想外の人物が現れた。そう、本来、勇者である僕が貰うはずだったスキルを受け継いだ、あの名もなきモブキャラ——カゲトが徒党を組んで、僕の覇道の邪魔をしてきたんです」
「なんだと……勇者が本来受け継ぐはずだったスキルを備えた者が現れたのか」
「ええ……そいつは勿論、そこそこ強かったんですが。そいつとパーティーを組んでいる女二人もそこそこ強かったんですよ。まあ、そのまま闘い続ければ、99%僕が勝ったんですけど、やっぱり万が一って言うのはあるじゃないですか。相手はどんな切り札を用意してきたか、わかったものじゃない。そこで賢明な僕はプライドをかなぐり捨てて、『戦略的退却』をしてきたんですよ。それで今に至る、ってわけです。わかりましたか? アスタロト様」
僕は長々と言い訳をした。我ながら見苦しかった。だが、致し方ない。そうでもしないとこの場に居られなかったのだ。
「貴様は、勝てそうな相手に万が一でも足元を掬われるのが嫌で、逃げ帰ってきたというわけか? 多少手強そうな相手を目の前にしただけで、恐れ逃げ帰ってきたと!?」
「だ、だから! 人聞き悪いなぁ! 『戦略的退却』! 『戦略的退却』って言ってるじゃないですか!」
――と、その時であった。
「アスタロト様!」
「……なんだ?」
魔族兵が僕達のところへとやってきた。随分と慌てた様子だった。また何かあったようだ。
「先日、人間の国であるエスティーゼ王国へと我が魔王軍は侵攻を始めたのですが、戦況はあまり芳しくないようです。援軍を送ってくれないかと、申請が来ております」
「……そうか。援軍か」
アスタロトは思い悩む。
「良いだろう。闇勇者ハヤト。この度の敵前逃亡、許そうではないか」
「どうしたの? アスタロトちゃん。随分と優しいね」
闇の女神ネメシスは驚いたような表情を浮かべる。
「確かに、この闇勇者ハヤトはエルフの国を攻め落とす事はできなかった。だが、エルフの軍の大半を滅ぼし、エルフ国に大きな痛手を与えた事に間違いはない。今、エルフ国は半ば壊滅状態だ。戦況は間違いなく好転している。そして、今の戦況にこの闇勇者が大きく貢献したのも間違いのない事実だ」
「アスタロト様! さ、流石です。流石、器が大きいお方です」
僕はアスタロトを崇めた。
「そして闇勇者ハヤトよ。貴様に汚名返上のチャンスをやろうではないか。私と二人で王国の戦線に援軍へと向かうぞ。王国を攻め落とすのだ」
エスティーゼ王国。忘れるはずもない国の名だ。僕はその国で召喚されたのだ。そして、僕はそこでろくでもない仕打ちを受けたんだ。不運にも何のチートスキルも授からなかった僕はあの王国を追い出されたのだ。
あの時の恨み、忘れるはずもなかった。これは僕はチャンスだと思ったのだ。積年の恨みを晴らすチャンス。
「も、勿論です! アスタロト様! 援軍に向かわせてください! 今度こそ僕の力で王国を攻め滅ぼしてみせます!」
「まあ、待つが良い。そう、勇むな。今度は私も一緒に行こうではないか。戦いというものは決して慢心してはならぬ。万全を期さねばならぬのだ」
仕方がない。ここはアスタロトの言う事を聞いておくか。一度痛い目に合ったのは事実だ。
「わーい! わーい! 私も行く! 私も行く!」
闇の女神ネメシスが嬉しそうに飛び跳ねる。
「ピクニックに行くわけではないのだぞ。ネメシスよ。喜んで飛び跳ねるではない。我々はこれから戦争に向かうんだぞ」
「そんなのわかってるよ、アスタロトちゃん!」
「だから『ちゃん』付けはよせ。威厳がなくなるだろうが。全く、学習能力のない奴だな。これ程言ってもわからんとは……」
アスタロトは深い溜息を吐いた。
「それでは早速向かおうか! エスティーゼ王国へ」
こうして僕達三人はエスティーゼ王国へと向かった。
当然のように、あのカゲト達も僕達の侵攻を黙って見ているはずがないだろう。
そして、僕達は再び刃を交える事になるのだ。
エスティーゼ王国で行われる抗争はエルフの国で行われたそれよりも、ずっと激しいものになるに違いない。
そんな予感を僕は抱いていた。