勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを全部貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

「はぁ…………掃除だるいなぁ」

 俺の名は臼井影人(うすいかげと)。勉強も運動も何もできない。影の薄い、どこにでもいる普通の男子高校生だ。
 声を出さなければ誰からも気づかれないような、そんな影の薄い、幸のない男だ。

 そんな俺は一人、学校の裏庭を掃除していた。

 ――そんな時。一人の男子生徒が歩いてきたのだ。

 だ、誰だ?

 あ、あれは。日向勇人(ひなたはやと)。俺と同じ学年のクラスメイトだ。俺とは対照的に日向は周りからの注目を常に浴び続ける男子生徒だ。

 二年生にして、学園の生徒会長を任され、その上、サッカー部ではエース。噂ではプロサッカークラブのスカウトも奴目当てで学園に訪れてきているらしい。
 
 それだけじゃない。奴は勉強の方も優秀なんだ。学園一の頭脳を誇り、テストの順位は常に一位。プロサッカー選手の道に進まず、受験の方に専念すれば東大進学間違いなしと言われている化け物のような天才だ。

 当然のように、こいつは恋愛においても圧倒的な勝ち組で、アイドルのように可愛いと噂されている、学園のマドンナと付き合っているという噂だった。

 まさしく、奴は人生という物語の主人公だ。そして俺は完全なるモブキャラ。奴にとって、俺は空気のような存在だろう。

 完全に視界に移っていない。俺の方に向かって歩いてきているのだが、俺がいる事に気づいている様子が微塵もなかった。

 奴が近づいてきた。——と、その時だった。

俺達の足元に、突如、光の魔法陣のようなものが出現した。

「な、なんだこれはっ!」

「う、うそだろ。う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 俺達は、その光の魔法陣のようなものに飲み込まれ、そして意識を失った。

              ◆

「うっ……ここは……」

「い、一体なんなんだ」

「目を覚ましたようね……勇者、日向勇人」

 俺達の目の前には恐ろしく美しい女性だった。人間離れをした美貌をした女性だ。

「あ、あなたは一体……」

「私は女神。あなたは現実世界ではない世界。異世界に勇者として召喚されたのよ」

「……そ、そんな……馬鹿な……。そんな事があるわけ……」

「信じられないでしょう。でも、これは紛れもない事実なの。今、異世界『ユグドラシル』は滅びの危機に陥っているわ。異世界があなたの力を待っているのよ」

「い、異世界が僕の力を……」

「ええ……そうよ。心配しなくても大丈夫。あなたには異世界を救えるだけの特別な力を授けるわ。そう、特別なスキルを与えるの」

「特別なスキル?」

「その特別なスキルさえあれば、あなたは何の心配もなく、異世界での生活を送る事ができるわ。どう、世界を救う勇者として、この召喚を受けて貰えるかしら?」

「……拒否権はあるんですか?」

「勿論ないわ」

 ……だったらわざわざ聞くなよ、と言ってやりたい。

「だったら仕方ないですね。この日向勇人。滅びゆく異世界の危機を救う為に、勇者として、召喚に応じましょう」

「ふふっ……それでこそ勇者よ。それじゃあ、さっさとスキルを継承させて異世界の方へ旅立って貰いましょうか」

 この間、ずっとこの二人の会話が続いている。

「ごほんっ!」

 俺はわざとらしく咳払いをした。

「何かしら……今、咳のような音が。って、誰っ! いつからそこにいたのっ!?」

 女神は驚いていた。

 いつから、って最初からだけど……最初から。

「だ、誰なのよ。勇者勇人。こいつ」

「さ、さあ……どっかで見たような覚えもあるような。どこかですれ違ったかなぁ……」

 い、一応、俺はお前のクラスメイトだぞ……。

 日向は決してとぼけて言っているのではない。俺の存在なんて、こいつにとってはその程度だってことだ。

「……まあいいわ。この召喚の儀に巻き込まれたら元には戻せないし、仕方ないわね」

 な、流された。俺がその勇者召喚に巻き込まれた事を。さらりと、この女神は。

「それじゃあ、説明を始めるわね。まずあなたはLV1から始まるけど、心配しないで。スキルが凄く強いから。HP、MP、攻撃力、防御力、魔力、運の成長適性がSになるスキルが身につけられているの。だから、すぐにあなたは強くなるわ。それに、他にもチート級のスキルを何個も持っているから、何も心配いらないわ」

 至れり尽くせりという感じだった。な、なんなんだよそれは。こいつは異世界にいっても圧倒的な強キャラのままなのかよ……。全く、嫌になっちまうぜ。現実っていうのはなんて理不尽なもんなんだ。

「それから、あなたはある王国で目を覚ますの。それから仲間を集めて、最終的には魔王を倒す。流れとしてはそんな感じよ」

 そんな感じって……。

「それじゃあ、スキルを継承するわっ! ぽぽいのぽいっと! はい、スキル継承完了!」

 女神はステータス画面のようなものを開き、適当にカーソルに指を走らせた。なんというか、雑なスキル継承だった。もっと不思議な力で授けるのかと思っていた。

「異世界『ユグドラシル』の命運はあなたの腕にかかっているわ。勇者勇人。あなたの命運を祈ってるわ」

「は、はい! わ、わかりました! 女神様! 僕、世界を救うために精一杯頑張りますっ!」

 空気……完全に俺の存在は空気だった。まあ……いつもの事だけどよ。

 真っ暗闇の世界が眩い光を放った。光に飲み込まれていく。そして俺達は再び意識を失うのだった。

 起きた次の瞬間に目に入ったのは、ゲームや漫画でしか見た事のないような、王様と王女様。それから何人もの兵士達だった。

 こうしてモブキャラの俺は勇者召喚に巻き込まれ、ファンタジー世界に召喚されてしまった、というわけなのである。

 


「おおっ! 目覚めたかっ! そなたが召喚の儀によりこの世界に召喚されたという勇者か。私はこの王国エスティーゼの王である。そして、こやつが私の娘である、王女ミレイアだ」

「初めまして……勇者様。ミレイアと申します。なんて凛々しいお顔かしら……。お会い出来て、光栄ですわ」

 王女ミレイアは勇者として現れた日向を恍惚とした目で見ていた。なんというか、最初から好感度マックスといった様子だった。

「この世界にそなたが召喚されたのは他でもない……この異世界『ユグドラシル』は今、魔王の手によって滅びの危機に瀕しておる。勇者であるそなたの力に大変期待しているのだぞ」

「お願いしますわ……勇者様。あなた様の力がなければ、我々は大変困ってしまうのです」

「勿論、魔王を倒し、世界を救った暁にはそれ相応の褒美は出そう。何でも与えようぞ。金でも領土でも……あるいは当然のように、見目麗しい女性もあてがおうぞ」

「ゆ、勇者様さえよろしければ……全てが終わった暁には、その……私が勇者様の伴侶となってもよろしいですわ……ぽっ」

 王女ミレイアは頬を赤く染める。

「さあ! 旅立つのだっ! 勇者ハヤトよっ! 女神から聞いておるぞ! そなたには特別な力があるのだとっ! その力で魔王軍を蹴散らし、魔王を打倒するのだっ!  そ、そして、この世界に平和を齎すのだっ!」

「よろしくお願いしますわっ! 勇者様! どうかっ、この世界に平和をっ!」

 国王と王女の二人は勝手に盛り上がっていた。俺の事など眼中になく。影が薄いモブキャラだから致し方ないが……。

「えー、こほんっ!」

 俺は自身の存在を主張するかのようにわざとらしく、咳をした。

「は、はてっ……そなたは誰だ? 勇者殿の隣にいる男性だ」

「だ、誰なんでしょうか。今、存在に気づきましたわ……まるで幽霊のよう」

 国王と王女はやっとの事、俺の存在に気づいたようだ。相変わらず酷い扱いだ。

「さ、さあ……誰なんでしょうね?」

 日向は苦笑いとともに、首を傾げる。

 こら、こいつは……。いくら影が薄いって言っても、俺はお前と同じクラスメイトなんだぞ。クラスメイト。それなのに誰かもわからないなんて、どういう事なんだ。
 俺は多少の憤りを覚えた。

「もしかしたら、僕の召喚に彼も巻き込まれたのか……」

「なんと、哀れな男よ。女神はなんと言っていた、元の世界に戻してやる事はできないのか?」

「何でも、一度召喚した相手は簡単には戻せないみたいです。魔王を倒した後は別かもしれませんが……」

「そうか、実に可哀想な男よの……」

「お父様、この哀れな男性に一体、どんな慈悲をかけてあげるのですか?」

「残念ながら我々も世界の危機に瀕しており、それどころではない。彼にかけられる慈悲などないのだよ。さあっ! 出ていった! 出ていった! 君に用はないのだよっ! 我が王国から出て行きたまえ!」

「お父様、それは酷いですわ。王国の外はモンスターが一杯出現しますのよ。まともなスキルも魔法も、装備もないというのに、どうやって生き延びますの?」

 な、なんだって、王国から外に出ると、モンスターがうじゃうじゃと出現するのか。それは恐ろしいな。モブキャラの俺なんてあっと言う間に食べられてしまう事だろう。

「それは彼の問題だろう。我々の関与するところではない。さあ、さあっ! いいから出て行くのだっ!」

 こうして俺は何の慈悲もなく、召喚された異世界の王国から追い出されたのだ。連中にとって、用があるのは勇者として召喚された日向であり、決して俺ではないのだ。

 こうして俺はすっかんぴんのまま。危険な外の世界に放り出されたのである。

                ◆

「ちっ……なんなんだよ。異世界にまで来て、現実世界のように俺はのけ者扱いじゃないか。こんなもんかよ」

 そんな扱いも当然だ。何せ、勇者として召喚されたのはあの日向勇人の方であり、決して俺ではないのだ。俺は偶然、勇者召喚に巻き込まれただけの、ただのモブキャラだ。最初から俺はこの世界にとってはお呼びではないのである。

「こんな素寒貧で放り出されて、一体これからどうすればいいんだよ」

 こういった場合、まず何をすればいいんだ。こういう世界は、ステータスとか見れる世界なんだっけ。

「えーと、『ステータス・オープン』」

 俺は念じた。すると、俺の目の前に画面のようなものが現れる。

「おっ……出た出た。何々?」

 敵を知り、己を知れば百戦危うからず。まずは己の事を知る事が大事な事なのだ。


============================

臼井影人 16歳 男 レベル:1

職業:無職

HP:5

MP:5

攻撃力:5

防御力:5

素早さ:5

魔法力:5

魔法耐性:5

運:5

装備:特になし

資金:0G

============================

 うわー……酷いなこれは。しかもなんだよ、無職って。何も職業に就いていないって事か。学生からただの無職にランクダウンしているじゃねぇかよ。

 しかし、面白い程、本当に何もないな……。

「こんなんでこれからどうやって生きて行けばいいっていうんだよ」

 俺は目を下へと持っていく。

「ん? こ、これはなんだ!」

俺はその時、驚くようなものを目の当たりにしたのだ。

============================


スキル:『HP成長適正大』『MP成長適正大』『防御力成長適正大』『素早さ成長適正大』『魔法力成長適正大』『魔法耐性成長適正大』『経験値取得効率向上』『レベルアップ上限突破』『資金獲得効率大』『炎耐性大』『水耐性大』『雷耐性大』『地耐性大』『光耐性大』『闇耐性大』『全武器装備可能』『全防具装備可能』
『アイテム保有上限突破』『魔獣、聖獣使い(※ありとあらゆるモンスターを使役する事ができる)』『勇者の証(※勇者が取得できる全技が習得可能になる)』『解析(アナライズ)』※モンスターのデータを解析し、読み取れるスキル。

============================

 「な、なんだと! なんだこれはっ! どうしてこんな事になっているっ!」

 俺は驚いた。そこにあったのは多種多様なスキルばかりだったのだ。俺のスキル欄は空欄のはずだったのに……。しかも、どれもがチートそうなスキルばかりだ。

「な、なんでこんな事がっ! まっ、まさかっ! あの女神かっ!」

 勇者召喚に無関係な俺を巻き込むぐらい適当な女神だ。あの時、スキルを勇者として召喚された日向に継承するつもりが、間違って俺に継承してしまったのだ。

  ヒューマンエラーというのはよくある事だ。まあ、間違えたのは女神なのだが……。間抜けな女神もいたものだ。

「さて……どうするか。これから」

 俺は後ろの王国をかえりみる。今頃、何か大変な事になっているかもしれないが、もはや俺の知った事ではない。

 絶望するしかなかった異世界での生活に、段々と期待を持てるようになっていた。俺には金も装備もLVも何もない。
 だけど、女神が手違いでくれた数多のチートスキルがあった。だから、これから何とかやっていける気がした。

 もう手違いだから返せなんて言われても返すものか。このチートスキルは全部俺のものだ。

  思わず、笑みが綻ぶ。何も良いことのない人生だったが、異世界に来て初めて幸運に見舞われた。

 こうして、俺は女神が手違いでくれたチートスキルを頼りに、異世界での新たな人生を始めたのであった。



「……チートスキルは一杯あるけど、金もなければ装備もないし、まだLVも低いからなぁ……レベルが低いって事はステータスもまだ低いままってわけで」

 俺は今後の事を考えていた。

「とりあえずは金がいるな……金がなきゃ装備も買えないわけだし。レベルがあがらなくても装備さえまともなものが買えればある程度はまともに買えるでしょ。それと、回復系のアイテムだな。ポーションか薬草……それも金さえあれば買える。やっぱり異世界でも金が必要だわな……」

 俺は独り言を呟く。俺みたいな陰キャはよく、ロープレをやっていたので、この手の異世界にはある程度詳しいのだ。ロープレの知識も役立つものだった。

「つったって、どうやって金を稼げばいいんだ。アルバイトでもしろっていうのかよ?」

 俺は嘆いていた。右も左もわからない異世界で働き口を見つけるのは何かと大変そうだ。

——と、その時であった。俺の目の前に複数体のモンスターが現れたのである。

「へっ……エンカウントしやがったか。あのド定番のモンスターと」

 俺の目の前に現れたのは複数体のスライムだった。

 装備も技も何もない。何の持ち合わせもない俺だがそれでもスライムなら何とかなるんじゃないか。そんな期待感を俺は持っていた。

 ともかく、やるしかなかった。俺の異世界での生活。その第一歩はここから始まるんだ。

「やってやる! やってやるぞ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 裸一貫(勿論、本当に裸なわけではない。装備らしい装備を身に着けていないというだけで)の俺は、仕方なく、スライムに殴り掛かる。

 スライムが断末魔を上げて、果てた。

 やった。やれるぞ。今の俺でも、スライム相手なら何とかなる。

「よしっ! 次だっ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 俺はスライムを次々と殴り、そして倒していく。

 いつの間にか、スライムは一匹たりともいなくなっていった。

「はぁ……はぁ……はぁ……何とかなったか」

 俺はほっと一息を吐く。現地の人達からすれば、高々スライムだと思うかもしれない。だが、LVも装備も何もない俺からすればその高々スライムだって、十二分に脅威になりうるのだった。

『LVがUPしました』

『モンスターを討伐した事で資金を得ました』

 大いなる存在からだろう。どこからともなく、俺の脳内に直接語り掛けるような声が聞こえてきた。

「おっ……レベルが上がったのか。流石にLV1なだけあるな。LVが低い分、弱いモンスターを倒しただけでもLVが上がるな。それに資金もゲットできたのか。一石二鳥だな」

 通常、モンスターの強さと獲得できる経験値というのは比例している。だからあのスライム達を倒して得られる経験値なんてたかが知れているとは思うのだが……。

「ステータスオープン」

 俺はステータス画面を開き、確認する。

============================

臼井影人 16歳 男 レベル:3

職業:無職

HP:15

MP:15

攻撃力:15

防御力:15

素早さ:15

魔法力:15

魔法耐性:15

運:15

装備:特になし

資金:500G

スキル:『HP成長適正大』『MP成長適正大』『防御力成長適正大』『素早さ成長適正大』『魔法力成長適正大』『魔法耐性成長適正大』『経験値取得効率向上』『レベルアップ上限突破』『資金獲得効率大』『炎耐性大』『水耐性大』『雷耐性大』『地耐性大』『光耐性大』『闇耐性大』『全武器装備可能』『全防具装備可能』
『アイテム保有上限突破』『魔獣、聖獣使い(※ありとあらゆるモンスターを使役する事ができる)』『勇者の証(※勇者が取得できる全技が習得可能になる)』『解析(アナライズ)』※モンスターのデータを解析し、読み取れるスキル。

============================

「おおっ、レベルがあがってるな」

 スライムなんて倒しても大してレベルが上がらないと思っていたのに、LV1からLV3まで。2もレベルアップしているじゃないか。これも、あの女神が手違いでくれたチートスキルのおかげだ。俺には『経験値取得効率向上』というスキルがある。

 その為、経験値を効率よく取得できたのかもしれない。多分そうだ。

 それに、資金だって思ったより増えていた。これもスキルのおかげだろう。

『資金獲得効率大』。このスキルはモンスターを倒した際の資金効率を上げる事ができる。500Gの価値がどれほどのものなのかはわからない。もしかしたらある程度は装備を整える事ができるかもしれなかった。

「とりあえず、装備を整える必要があるな。500Gで足りるのかはわからないけど……ステゴロだといずれ限界が来るのはロープレでも同じだしな……」

 俺は適当な国に入り、そこの装備屋を目指す事にした。どんな格安の武器や防具でもないよりかはマシだからだ。

 そしてもし、お金が余ったら道具屋でポーションか薬草を買おう。やはり回復アイテムは異世界で生活していく上で必須なものだからだ。

 こうして次なる目標が定まった俺は入国できる国を目指した。召喚された国、『エスティ―ゼ』王国を俺は出禁になっているので入る事は出来ない。

 今頃、召喚された勇者が実は何のスキルも持ち合わせていない事に気づいて、大慌てになっているかもしれないが。そんな事は知った事ではなかった。俺の事を追い出したのはあいつらなんだし。

 ともかくスライムを倒した俺はこうして、次の国へと向かったのである。



僕の名前は日向勇人(ひなたはやと)。突然、異世界に勇者として召喚されてしまった、ただのイケメンさ。

おっと、ただのイケメンっていうのは余りに謙遜が過ぎたな。本当はただのイケメンじゃないんだ。僕は勉強もスポーツもできる。何でも一番なイケメンだ。
 当然、女の子にだってモテモテだ。誰よりもね。

 そんな人生イージーモードの僕だけど、突如、異世界に勇者として召喚されたんだ。だけど、異世界に召喚されても僕は特別だった。何せ、僕は女神からいくつものチートスキルを継承されて召喚されたんだからね。

 だから異世界でもイージーモードなのは間違いなしだよ。
 
 なんだか、召喚に巻き込まれた哀れなモブキャラがいたような気がするけど……まあいいや。彼の事を覚えているだけ、記憶容量の無駄ってもんだろう。できるだけ速やかに忘れるとしよう。

「勇者ハヤトよ。そなたにはこの王国に伝わる剣を授けようぞ」

 僕は国王から剣を受け取る。不思議な力を秘めた剣だ。

「これは勇者の剣だ。ふさわしき者でなければ装備する事はかわない。だが、勇者であるそなたならば、問題なく装備できるはずだ」

「ありがとうございます、国王陛下」

「そして、これは支度金の1000Gだ」

 僕は1000Gを渡される。

「それだけではないぞ。ポーションとエーテル……それから困らないように数日分の食料を渡そうぞ」

 僕はHPとMP用の回復アイテム。さらには食料まで渡される。もう至れり尽くせりだった。最高だね。

「勇者様、あなた様が混沌としたこの世界を救う事を私、心待ちにしていますわ」

 僕は王女様から見つめられる。間違いない……この女。完全に僕に惚れているな……。まあ、君と結婚する気はないんだけど、僕がこれから気づくハーレムの一員としてなら考えてあげなくもないかな。

「あなた様が世界を救った暁には私、あなた様と……ぽっ……やだ、私ったら、何を考えているのでしょうか。気が早いですわ。勇者様と結婚して、子供が何人もできている未来を想像するなんて……」

「はは……なんて気が早い王女様だ」

 僕は苦笑いをした。だから、僕は別に君と結婚する気なんてないっての。僕のハーレム要員の一員。ただの性処理道具としてなら、考えてあげるよ。

「それでは行くのだ! 勇者ハヤト! 世界にはお主の仲間が至る所にいる! その仲間達と出会い、幾多の苦難を乗り越え、成長し、必ずや魔王を倒すのだ! そしてこの世界の平穏を! 頼んだぞ!」

「私からもお願いしますわっ! 勇者様!」

「行ってきますよ。国王陛下、王女様。僕の力で必ずやこの世界を救ってみせます」

 こうして、装備と資金、様々なアイテムを手渡された僕は王国エスティーゼを旅立ったのだ。

 ◇

「とりあえず……僕の今の状態を把握しとかないとなぁ」

 僕は頭が回るんだ。敵を知り己を知れば百戦危うからずと言う。自分の立ち位置を知る事。それがこの世界で生き抜いていく上での第一歩だった。

「まずは自分のステータスを確認しよう。『ステータス・オープン』」

 国王からある程度、説明を受けた僕はあらかたこの世界の事を知っていた。

 この世界はステータスのある世界で『ステータス・オープン』という言葉を発すると、自身のステータスを視認できる画面が表示される……らしい。

 僕はこの異世界に来るよりも前に、女神からいくつものチートスキルを授かっている。まずはその確認もしたかったのだ。

 いくつものチートスキルを得ている僕は、この異世界でもイージーモードは確定だった。

 僕はこれからの輝かしい異世界ライフに心を躍らせていた。

 こうして僕は自身のステータスを確認するのであった。







「はぁ……はぁ……はぁ……や、やっとだ。やっと着いた」

俺はアディールという名のエスティーゼ王国に隣国に着いた。長い旅路だった。足がクタクタだった。

俺はその国に入国した。よくわからないのだが、その国に入るのはパスポートみたいな身分証明書は必要なかった。異世界っていうのはよくわからないものだった。誰でもウェルカムみたいな感じなのだろう。
剣や魔法が当たり前の世界だからか、持ち物検査みたいなものもなかった。
憲兵みたいなものが門に立っていて、そこで入国の目的を聞かれただけだった。

「少年、入国の目的は?」

「観光です……」

 俺は適当に答えた。実際、観光で間違っているわけでもない。

「へー、仕事は何やってるの?」

 仕事っていうのは要するに職業の事か……。俺はステータス画面の職業ステイタスを思い出す……。そうだ。この世界に用なく呼び出された俺にはそもそもの話として職業なんていうものはなかったのだ。

「……無職です」

 俺は力なく答える。なんというか、現実世界だろうが、異世界だろうが、無職という言葉は罪悪感を覚えざるを得ないものであった。

「はは、無職で観光か……そいつはお気楽でいいな」

 当然のように笑われた。

「はは……で、ですよね」

 俺は愛想笑いをする。

「観光よりも仕事を探せよ、少年」

 俺はそう、憲兵に励まされる。

 ごもっともである。無職というのは世知辛いものだ。返す言葉もなかった。

 こうして俺は隣国アディールに入国する事が出来たのだ。
                 ◇
 城壁に囲まれた国の中には様々な人々がいた。市場では様々な商品が売買されている。そして、多種多様な店や施設も存在していた。

「えーと……装備屋は……」

 俺は言語習得のスキルなどは持ち合わせていないが、なぜか普通に会話もできるし、異世界世界の文字を読む事が出来た。それはもう、異世界召喚された特典みたいなものなのだろう。ともかく、不都合な事ではないので俺もまたさして気にしない事にした。

「あ、あった! ……。ここだ!」

 俺は装備屋を見つけた。文字だけではなく、わかりやすく剣と盾が描かれている。間違いなく、ここが装備屋だろう。俺は装備屋に入った。
                ◇
「いらっしゃい! ここはアディールの装備屋だよ!」

 店に入ると、店主と思しき男の快活な声が響き渡る。

「さあ、どうか見て行ってくれ。うちの自慢の装備の数々」

 俺は物色する。それと同時にほっと胸を撫で下ろす。金額を見て回っていたが、決して装備を買えない程ではなかった。『500G』という資金にはそれなりの価値がありそうだった。
 無論、どんな装備でも買い揃える事ができるとは決して言えないが……。

 俺は装備品を吟味した上で、購入する装備品を決定する。

 よし、これとこれだ。

 俺は銅の剣と銅の防具を手に取る。それぞれ200Gの値段が付いている。

「すみません、これをください」

「銅の剣と銅の防具だね。合計で400Gになるよ」

 俺はカウンターに400Gを置く。

「まいど、ここで装備していくかい?」

「ええ、そうします」

 俺は早速、装備を身に着ける事にした。

 銀の剣と銅の防具を身に着けた俺は、やっとの事でいっぱしのファンタジー世界の住人になれたような、そんな気になった。

 今までの俺は学生服を身に着けていたのだ。このファンタジーの世界観とは程遠い、場違いな感じになっていた。だからこれでやっとの事、様になったように感じている。

 まだ金は残っていた。100Gではあるが。これだけ金があればまだ回復アイテムを購入する事くらいならできるだろう。

 俺は装備屋を後にし、道具屋へと向かった。

                ◇
「いらっしゃいませ! アディールの道具屋へようこそ!」

 道具屋に入ると、今度は快活な女性の声が響き渡る。

「何をお求めでしょうか?」

 道具屋の店主に訊かれる。まだ、若そうな女性だった。

「その……回復アイテムのポーションが欲しいんです」

「ポーションと言っても回復量によって値段が違うんです。勿論、回復量が多い程値段が高いです。どの程度のポーションをお求めでしょうか?」

「一番安いポーションをお願いします」

 今の俺のLVはあまり高くない。その為、ステータスも余り高くなかった。当然のようにHPもだ。一番安いポーションでも、十分に回復させる事ができた。

「一番安い普通のポーションですね。そこの青色のポーションになります。値段は20Gです」

 20Gか。だったら5個買えるな。俺は脳内でそろばん勘定をした。それで無一文になるが、整った装備とアイテムでモンスターを討伐すれば、また資金を得られる。これは必要な先行投資だ。決して無駄な出費ではないと俺は考えた。 

俺はポーションを5個購入する。そして、道具屋を後にした。

「ありがとうございます! またお越しくださいっ!」

 俺は笑顔で見送られた。こうして俺は装備を慎重し、回復アイテムのポーションを購入したのだ。
============================

臼井影人 16歳 男 レベル:3

職業:無職

HP:15

MP:15

攻撃力:15

防御力:15

素早さ:15

魔法力:15

魔法耐性:15

運:15

装備:銅の剣 ※ 攻撃力+5 銅の防具 ※防御力+5 (NEW)

資金:0G (NEW)

スキル:『HP成長適正大』『MP成長適正大』『防御力成長適正大』『素早さ成長適正大』『魔法力成長適正大』『魔法耐性成長適正大』『経験値取得効率向上』『レベルアップ上限突破』『資金獲得効率大』『炎耐性大』『水耐性大』『雷耐性大』『地耐性大』『光耐性大』『闇耐性大』『全武器装備可能』『全防具装備可能』
『アイテム保有上限突破』『魔獣、聖獣使い(※ありとあらゆるモンスターを使役する事ができる)』『勇者の証(※勇者が取得できる全技が習得可能になる)』『解析(アナライズ)』※モンスターのデータを解析し、読み取れるスキル。

アイテム:
ポーション※回復力小のポーション。一回限りの使い切り。消耗品。×5(NEW)

============================

 こうして俺は再び、次なる目的地へと向かうのであった。






「ステータスオープン」

 イケメン勇者の僕——、日向勇人はステータス画面を開くのであった。

僕を召喚した女神は、いくつものチートスキルを付与したと言っていた。そのスキルが何なのか、確認する必要があったのだ。
そしてそのスキルをどう運用していくのかが、今後の異世界生活を過ごしていく上で重要な鍵となるのだ。

なに、上手くやるさ。これまでの人生。ずっと上手くやってきた。だからこれからもきっとそうなる。人生イージーモード。異世界でも、きっと常にイージーモードさ。

そして僕はこの異世界にハーレムを作る。世界中の女を僕の目の前にかしづかせるんだ。

 僕は期待に胸を震わせていた。世界を救い、英雄として崇められる素晴らしい未来がきっと待っているはずなのだから。

「どれどれ……」

 表れたステータス画面に僕は目を滑らせる。

============================

日向勇人 16歳 男 レベル:1

職業:勇者

HP:5

MP:5

攻撃力:5

防御力:5

素早さ:5

魔法力:5

魔法耐性:5

運:5

装備:特になし

資金:1000G

スキル:特になし

アイテム:ポーション※回復力小×10 エーテル※回復力小×10
勇者の剣※勇者が装備できるとされている剣。不思議な力を秘めている。攻撃力+10。LVによって攻撃力が増加する

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ん? ……なんだこれは。見間違いか。僕というスーパーイケメンを異世界に召喚した、あの女神はいくつものチートスキルを授けたと言っていたはずだ。

 そして、それがあれば異世界など楽勝だと……。だが、僕がステータス画面を幾度となく凝視しても、そのスキル欄には何の記載もなかったのだ。

これは何かおかしいのではないか……。

 そうか、隠しスキルというものがあるんだろう。あまりに強力すぎる勇者のスキルはステータス画面には表示されないのだ。

 うんうん、きっとそうに違いない。僕はそう思った。スキル欄にスキルが反映されていないというだけで、僕はきっと恐ろしく強いに違いないのだ。

「さて……じゃあ、とりあえずは『勇者の剣』を装備するか」

 あの王国で授けられた剣。とりあえずは武器を装備しなければ話にならない。

「よし……この『勇者の剣』を装備して……ぐ、ぐわっ!」

 な、なんだ……僕が『勇者の剣』を手で持とうとした瞬間に、なぜか、強烈な力で弾かれた。まさか、この剣が僕の事を拒んでいるとでもいうのか……。

 その時、僕の目の前にウィンドウが現れる。

『『勇者の剣』は適応したスキルを持った者でなければ装備できません』

 そう、まるで僕に忠告するように……。

「な、なんだと! どういうわけだ! 僕は勇者だぞ! なんでその僕が勇者の剣を装備できないんだっ! 適応したスキルを持った者でなければって……僕が持っていないというのか……」

 僕が悪戦苦闘していた時の事だった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 一人の少女が僕に駆け寄ってきた。金髪をした、白い鎧を着た少女。目と鼻の整った、実に美しい少女である。こんな美少女、元いた世界は勿論、この異世界に来てからというもの、一人もいなかった。

 そうだな……彼女のような美しい女なら。遊びではなく、僕の本命にしてあげるかな。勿論、遊びの方も続けるけどね……。僕はそんな事を一人考えていた。

「やっと見つけました……あなたが異なる世界より召喚されし、伝説の勇者様ですか」

「そ、そうだけど……君は一体?」

「私の名はエステル。エステル・グローラッド。【剣聖】の職業を務めさせていただいています。伝説の勇者様に仕えるべく、王国アルテアより派遣されてきたのです」

「……へぇ……そうか。君が世界中に散らばっているという、勇者の仲間の内の一人か……」

 王道的な物語だ。冒険して仲間を増やしていき、協力し、そして最後には魔王を倒す。仲間になるのがこんな美少女だとは思ってもいなかったが。僕は思わず、鼻の下を伸ばし、彼女の身体を性的な視線で凝視する。

「どうしたのですか? 勇者様。私の身体に何か付いているというのですか?」

 彼女は怪訝そうな顔で言った。

「こほん……何でもない。剣聖エステル。僕についてこい、まずは君のその力を見せて貰おうか」

 剣聖というからには、それなりの剣に腕の覚えがあるのだろう。その力をまずは見せて貰おう。そう、僕は思ったのだ。

「は、はい! わかりました! 勇者様!」

 彼女は笑顔で答え、僕の後を付いてくる。

 今は何だか、調子が悪いが、きっとそのうち、僕の隠れスキルが覚醒し、最強になるに違いない。僕はそう思う事にした。

 細かい事を気にしていてもしょうがないのだ。こうしてエステルが仲間になった僕達、勇者パーティーは手強いモンスターを求めて荒野を彷徨う事にしたのである。



 装備も回復アイテムも揃えた俺はまた国を出て、荒れ果てた荒野へと向かったのだ。

 そこはモンスターのいる危険な地帯。だが、今の俺だったらきっとなんとかなるはずなのだ。

 「「「「クウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン」」」」

 荒野に辿り着くと、早速俺はモンスターの群れと遭遇(エンカウント)した。遠くの方から、無数の鳴き声が聞こえてくる。

 間違いない。俺は『解析(アナライズ)』のスキルでモンスターの解析をする。『解析(アナライズ)』を使えば、モンスターの大体のデータがわかるのだ。LVやHP、MPや弱点属性。どんなモンスターなのかが大体を把握する事ができるのだ。

 ……よし。『解析(アナライズ)』の結果が出た。俺の目の前にモンスターの情報が表示される。

モンスター名。ブラッド・ウルフ。
LV5。
HP20。
弱点属性炎。
モンスターの特徴。
ブラッド・ウルフは狼型のモンスター。素早い動きから繰り出される牙や爪の一撃が脅威である。

俺はこの『解析(アナライズ)』のスキルにより、ブラッド・ウルフの大体の情報を把握する事ができたのだ。

ブラッド・ウルフか……。強そうな狼型のモンスターだった。弱点属性は火という事だが、今俺は魔法も使えないし、属性系の武器や技も持っていない為、関係のない話だった。要するに爪や牙に注意しつつ、この最近購入したばかりの銅の剣で闘うより他になかった。

幸い、相手のHPはそう高くない為、攻撃さえ当たれば今の俺の攻撃力でも十分に倒す事が出来るであろう。

「クウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン」

ブラッド・ウルフは唸り声の後、突如俺に襲い掛かってくる。

「う、うわっ!」

 俺はその攻撃を紙一重で避けた。攻撃こそ当たらなかったものの、その風圧、威圧感は本物だった。その攻撃はこれが決してゲームの世界の出来事などではなく、現実のものであると思い知らされた。

 俺は一層気を引き締めて、ブラッド・ウルフの群れと応戦する。

 俺は応戦の最中、ブラッド・ウルフが飛び掛かってきた後、一瞬、隙が生まれている事を見出した。俺はその隙を狙う事にしたのだ。

「クウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン」

 一匹のブラッド・ウルフが唸り声の後、飛び掛かってきた。まるでゲームのようだった。実戦の中で相手のパターンを見出し、そして弱点を突いて攻略していく。ゲームもこの世界もその点において、大した差というものはないらしい。

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 俺はブラッド・ウルフの隙を狙って、渾身の一撃を放つ。

 キャウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

 ブラッド・ウルフの断末魔が響いた。俺の渾身の攻撃はブラッド・ウルフを一撃で葬り去るという結果になった。ブラッド・ウルフは何もなかったかのように、消えたのだ。
 この世界でモンスターを倒すと、何事もなかったかのように消えるものらしい。ドロップ・アイテムがある場合はその限りではないと思うが……。多分、アイテムだけがその場に落ちるのだろう。
 
 残りのブラッド・ウルフも同じ要領だった。こいつ等には高い知能なんてない。ゲームの雑魚モンスターと同じだった。明らかに同じパターンの攻撃を繰り返してくる。俺は攻撃の際に生じた隙を狙い、反撃する。その繰り返しであった。

「はぁ……はぁ……はぁ……な、何とかなったか」

 ブラッド・ウルフの群れは粗方、片付いた。俺はほっと一息を吐いた。

 その時であった。どこからともなく、声が聞こえてくる。機械的な、まるでシステム音のような声だった。

『LVアップしました。規定LVを超えた為、『勇者の証』のスキルの効果により、技スキルを習得します』

 どうやら、先ほど、ブラッド・ウルフの群れを倒した事でLVが上がったようだ。だが、それだけではない。

 どうやら『勇者の証』という、スキルはある程度LVが上昇すると、技スキルというものを習得するものらしい。

「……どれどれ」

 俺はステータス画面を開き、自身のステータスを確認する。

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臼井影人 16歳 男 レベル:5(NEW)

職業:無職

HP:25(NEW)※以下、パラメーターは更新されています

MP:25

SP:25 ※ 後付けで技スキルを使用する際に使用する、MPと同じようなパラメーターを考えました。

攻撃力:25

防御力:25

素早さ:25

魔法力:25

魔法耐性:25

運:25

装備:銅の剣 ※ 攻撃力+5 銅の防具 ※防御力+5

資金:0G 

スキル:『HP成長適正大』『MP成長適正大』『防御力成長適正大』『素早さ成長適正大』『魔法力成長適正大』『魔法耐性成長適正大』『経験値取得効率向上』『レベルアップ上限突破』『資金獲得効率大』『炎耐性大』『水耐性大』『雷耐性大』『地耐性大』『光耐性大』『闇耐性大』『全武器装備可能』『全防具装備可能』
『アイテム保有上限突破』『魔獣、聖獣使い(※ありとあらゆるモンスターを使役する事ができる)』『勇者の証(※勇者が取得できる全技が習得可能になる)』『解析(アナライズ)』※モンスターのデータを解析し、読み取れるスキル。

技スキル:一刀両断【敵単体に大ダメージを与える剣技】※使用SP10 (NEW)

アイテム:
ポーション※回復力小のポーション。一回限りの使い切り。消耗品。×5

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「おっ……パラメーターが上がってる。それに一刀両断って、技スキルも習得したぞ」

 単体攻撃だけど、大ダメージを与えられるのなら、ボス戦の時なんかに便利そうだった。ロープレ的な観点で言えば……。

 どうやらLVが5上がるごとに、新しく技スキルを覚えていくようだった。技スキルはSPを消費する事で使用できる、言わば必殺技みたいなものだな。実際に字の通り必ず相手を倒せるというわけではないとは思うが……。

 こうして、レベルが上がり、新しく技スキルを修得した俺は次なる目的を果たすべく、動き続けるのであった。


 荒れ果てた荒野に、僕と剣聖の少女——エステルはいた。

「さあ、ひとまずは君の力を見せてくれ! 『剣聖』エステルよっ!」

 今の僕はなぜか、調子が悪い。勇者に秘められた特別な力(スキル)を発揮できないようだった。

 その為、とりあえずは『剣聖』であるエステルの腕前を拝見させて貰う事にした。

クオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 荒野に、モンスターの叫び声が響き渡る。

「な、なんだっ! こいつはっ!」

 僕達の目の前に、巨大な狼型のモンスターが姿を現した。

「ご存じないのですか? 勇者様。このモンスターはビッグ・ブラッドウルフと言う、大型種のモンスターなのです……」

「そうか……異世界には不慣れなものでな。無知なのも致し方ないだろう。ともかく、さあ! ともかく見せてくれ! 『剣聖』エステルよ! 君の力を存分にっ!」

「は、はい。わかりました」

 エステルは剣を構える。輝かしい光を放つ聖剣を。

「では、参ります!」

 エステルはビッグ・ブラッドウルフに斬りかかった。その動きは凄まじく速く、目にも止まらぬとはまさしくこの事であった。

 エステルとモンスターが交錯する。

 まるで何事もないかのようであった。静寂が世界を支配する。

 次の瞬間。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 あの巨大で強そうだったモンスター、ビッグ・ブラッドウルフが断末魔を上げて果てたのだ。

「す、すごい……あんな巨大なモンスターを一撃でなんて……」

「別に凄くなんてありません。この程度、当然の事です」
 
 エステルは涼しい顔で言ってのける。異世界人にとっては普通の事かもしれないが、僕にとっては物凄い光景にしか見えなかった。ただの謙遜で言っているだけの事かもしれないが……。

 エステルは強い。間違いなく、使える。僕はなぜだか、不調で女神から貰った特別な力(スキル)を使えない状態にあった。
 だが、僕にはこの生まれ持った優秀な頭脳があるのだ。この女を利用し、僕が力を取り戻すまでに役立って貰おう。
 僕が力を取り戻すまでの繋ぎとして、彼女を利用しようと思ったのだ。

「当然の事なものか。君の力は素晴らしい。『剣聖』の名に恥じない程にね……どうか、勇者である僕の為に、その力を存分に振るってくれたまえ。期待しているよ、エステル」

「は、はぁ……そうですか。お力になれそうで良かったです」

 こうして二人は冒険の旅を続けるのであった。

             ◇

「い、いけっ! いくんだっ! エステル! 君のその剛剣で敵をねじ伏せる、いや、斬り伏せるんだ!」

 僕達の目の前には、またもや巨大なモンスターが姿を現す。一つ目の怪人。何でも、サイクロップスと言う名のモンスターらしい。

「は、はい! 勇者様っ!」

 僕はまるで、ポ〇モントレーナーのように、彼女に指示をしているだけであった。

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 彼女の凄まじい剣がサイクロップスにクリーンヒットした。サイクロップスは度々あった。

 この時ばかりではない、幾多にも及ぶ戦闘を僕は彼女にまかせっきりであった。それで何とかなってきていたのである。

 そんな冒険の日々がしばらく続いていた。僕にとってはとても楽であったが、それでもやはり彼女は不満を抱いていたようだ。不安というよりは疑念か……決して闘いもしない僕に、彼女は違和感を覚えていたようだ。

「あの……勇者様」

「ど、どうしたんだ? エステルよ」

「なんだか……私ばかり闘っているような気がするのです」

「そ、そうか……負担をかけさせていたか。す、すまないな。エステル」

「い、いえ。疲れたとか……そういう事ではないのです。HP(体力)を失っても、ポーションを飲みさえすれば回復するのですから……」

 彼女は僕を見据えた。鋭い眼差しで。

「勇者様、正直に言ってください。私はまるで、勇者様が戦闘を避けているように見えるのです」

 ギクッ……。

 図星を突かれた僕は、思わず、表情を歪ませてしまう。僕の美しい顔が台無しだ……、これじゃあ。僕は極めて平静な様子を取り繕う。

「そんな事はないよ、エステル。僕は君の実力を見て見たくて……。言わば君を試していたんだよ。僕が闘いを避けているなんて、そんな事はないんだよ」

「今まで幾度となく、実力は見せているではないですか。これ以上試す必要がどこにあると言うのでしょう?」

「……そ、それは確かに」

「勇者様。何か闘えない理由でもあるのですか?」

「……そ、それはだな……、その……」

「闘えないわけではなく、単に私の実力を試したかったというのなら……」

 彼女は鞘から剣を抜き放った。

「私と手合わせをしてもらえませんか? 勇者様。今度は私が勇者様の実力を試させて欲しいのです」

「うっ……ううっ……」

 彼女は冷徹な目で僕を見据えてきた。これ以上の誤魔化しは受け付けない、そんな強い意志を汲み取る事が出来た。

 もはや、僕に立つ瀬は何もなかった。

 こうなったら破れかぶれであった。僕は僕に秘められた、勇者の特別な力(スキル)が覚醒するのを、天に祈る以外になかったのだ。もしかしたら、追いつめられるのが条件として、僕の秘められた力は覚醒するのかもしれない。

 こうして、勇者である僕と剣聖エステルとの闘いが始まったのである。