「おおっ! 目覚めたかっ! そなたが召喚の儀によりこの世界に召喚されたという勇者か。私はこの王国エスティーゼの王である。そして、こやつが私の娘である、王女ミレイアだ」

「初めまして……勇者様。ミレイアと申します。なんて凛々しいお顔かしら……。お会い出来て、光栄ですわ」

 王女ミレイアは勇者として現れた日向を恍惚とした目で見ていた。なんというか、最初から好感度マックスといった様子だった。

「この世界にそなたが召喚されたのは他でもない……この異世界『ユグドラシル』は今、魔王の手によって滅びの危機に瀕しておる。勇者であるそなたの力に大変期待しているのだぞ」

「お願いしますわ……勇者様。あなた様の力がなければ、我々は大変困ってしまうのです」

「勿論、魔王を倒し、世界を救った暁にはそれ相応の褒美は出そう。何でも与えようぞ。金でも領土でも……あるいは当然のように、見目麗しい女性もあてがおうぞ」

「ゆ、勇者様さえよろしければ……全てが終わった暁には、その……私が勇者様の伴侶となってもよろしいですわ……ぽっ」

 王女ミレイアは頬を赤く染める。

「さあ! 旅立つのだっ! 勇者ハヤトよっ! 女神から聞いておるぞ! そなたには特別な力があるのだとっ! その力で魔王軍を蹴散らし、魔王を打倒するのだっ!  そ、そして、この世界に平和を齎すのだっ!」

「よろしくお願いしますわっ! 勇者様! どうかっ、この世界に平和をっ!」

 国王と王女の二人は勝手に盛り上がっていた。俺の事など眼中になく。影が薄いモブキャラだから致し方ないが……。

「えー、こほんっ!」

 俺は自身の存在を主張するかのようにわざとらしく、咳をした。

「は、はてっ……そなたは誰だ? 勇者殿の隣にいる男性だ」

「だ、誰なんでしょうか。今、存在に気づきましたわ……まるで幽霊のよう」

 国王と王女はやっとの事、俺の存在に気づいたようだ。相変わらず酷い扱いだ。

「さ、さあ……誰なんでしょうね?」

 日向は苦笑いとともに、首を傾げる。

 こら、こいつは……。いくら影が薄いって言っても、俺はお前と同じクラスメイトなんだぞ。クラスメイト。それなのに誰かもわからないなんて、どういう事なんだ。
 俺は多少の憤りを覚えた。

「もしかしたら、僕の召喚に彼も巻き込まれたのか……」

「なんと、哀れな男よ。女神はなんと言っていた、元の世界に戻してやる事はできないのか?」

「何でも、一度召喚した相手は簡単には戻せないみたいです。魔王を倒した後は別かもしれませんが……」

「そうか、実に可哀想な男よの……」

「お父様、この哀れな男性に一体、どんな慈悲をかけてあげるのですか?」

「残念ながら我々も世界の危機に瀕しており、それどころではない。彼にかけられる慈悲などないのだよ。さあっ! 出ていった! 出ていった! 君に用はないのだよっ! 我が王国から出て行きたまえ!」

「お父様、それは酷いですわ。王国の外はモンスターが一杯出現しますのよ。まともなスキルも魔法も、装備もないというのに、どうやって生き延びますの?」

 な、なんだって、王国から外に出ると、モンスターがうじゃうじゃと出現するのか。それは恐ろしいな。モブキャラの俺なんてあっと言う間に食べられてしまう事だろう。

「それは彼の問題だろう。我々の関与するところではない。さあ、さあっ! いいから出て行くのだっ!」

 こうして俺は何の慈悲もなく、召喚された異世界の王国から追い出されたのだ。連中にとって、用があるのは勇者として召喚された日向であり、決して俺ではないのだ。

 こうして俺はすっかんぴんのまま。危険な外の世界に放り出されたのである。

                ◆

「ちっ……なんなんだよ。異世界にまで来て、現実世界のように俺はのけ者扱いじゃないか。こんなもんかよ」

 そんな扱いも当然だ。何せ、勇者として召喚されたのはあの日向勇人の方であり、決して俺ではないのだ。俺は偶然、勇者召喚に巻き込まれただけの、ただのモブキャラだ。最初から俺はこの世界にとってはお呼びではないのである。

「こんな素寒貧で放り出されて、一体これからどうすればいいんだよ」

 こういった場合、まず何をすればいいんだ。こういう世界は、ステータスとか見れる世界なんだっけ。

「えーと、『ステータス・オープン』」

 俺は念じた。すると、俺の目の前に画面のようなものが現れる。

「おっ……出た出た。何々?」

 敵を知り、己を知れば百戦危うからず。まずは己の事を知る事が大事な事なのだ。


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臼井影人 16歳 男 レベル:1

職業:無職

HP:5

MP:5

攻撃力:5

防御力:5

素早さ:5

魔法力:5

魔法耐性:5

運:5

装備:特になし

資金:0G

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 うわー……酷いなこれは。しかもなんだよ、無職って。何も職業に就いていないって事か。学生からただの無職にランクダウンしているじゃねぇかよ。

 しかし、面白い程、本当に何もないな……。

「こんなんでこれからどうやって生きて行けばいいっていうんだよ」

 俺は目を下へと持っていく。

「ん? こ、これはなんだ!」

俺はその時、驚くようなものを目の当たりにしたのだ。

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スキル:『HP成長適正大』『MP成長適正大』『防御力成長適正大』『素早さ成長適正大』『魔法力成長適正大』『魔法耐性成長適正大』『経験値取得効率向上』『レベルアップ上限突破』『資金獲得効率大』『炎耐性大』『水耐性大』『雷耐性大』『地耐性大』『光耐性大』『闇耐性大』『全武器装備可能』『全防具装備可能』
『アイテム保有上限突破』『魔獣、聖獣使い(※ありとあらゆるモンスターを使役する事ができる)』『勇者の証(※勇者が取得できる全技が習得可能になる)』『解析(アナライズ)』※モンスターのデータを解析し、読み取れるスキル。

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 「な、なんだと! なんだこれはっ! どうしてこんな事になっているっ!」

 俺は驚いた。そこにあったのは多種多様なスキルばかりだったのだ。俺のスキル欄は空欄のはずだったのに……。しかも、どれもがチートそうなスキルばかりだ。

「な、なんでこんな事がっ! まっ、まさかっ! あの女神かっ!」

 勇者召喚に無関係な俺を巻き込むぐらい適当な女神だ。あの時、スキルを勇者として召喚された日向に継承するつもりが、間違って俺に継承してしまったのだ。

  ヒューマンエラーというのはよくある事だ。まあ、間違えたのは女神なのだが……。間抜けな女神もいたものだ。

「さて……どうするか。これから」

 俺は後ろの王国をかえりみる。今頃、何か大変な事になっているかもしれないが、もはや俺の知った事ではない。

 絶望するしかなかった異世界での生活に、段々と期待を持てるようになっていた。俺には金も装備もLVも何もない。
 だけど、女神が手違いでくれた数多のチートスキルがあった。だから、これから何とかやっていける気がした。

 もう手違いだから返せなんて言われても返すものか。このチートスキルは全部俺のものだ。

  思わず、笑みが綻ぶ。何も良いことのない人生だったが、異世界に来て初めて幸運に見舞われた。

 こうして、俺は女神が手違いでくれたチートスキルを頼りに、異世界での新たな人生を始めたのであった。