僕は剣を構える。勇者の剣ではなく、装備屋で購入した、鉄製の普通の剣だ。
「なぜなのです?」
エステルが疑問を投げかける。
「……何がだ?」
「伝説の勇者は王国エスティーゼから伝説の剣を授けられると聞いております……。それなのに、なぜ鉄の剣などを装備しているのですか」
「そんな事、僕に聞かれてもわからないよ……なぜだかわからないけど、装備できないんだ」
「装備できない?」
「それより、僕の力を見たいんだろ! でりゃあああああああああああああああああああ!」
僕は、出鱈目にエステルに斬りかかる。運動神経は抜群に良い方だったけど、所詮は素人のものだ。技術が伴っていない、雑な攻撃は剣聖である彼女が捌くのは実に簡単なものであった。
「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
避けられた。勢い余っていた僕は無様にも転がり落ちる。
「ふざけているのですか」
剣で受け止めるまでもなく、余裕をもって彼女には避けられてしまったのだ。
「ふ、ふざけてなんてない! 僕は真剣だ!」
「あなたは私を騙していたのですか……私は異世界より召喚される勇者に仕えるべく、懸命にその剣の技を磨いてきました……それなのに、そんな私を騙すなんて、あんまりではないですか」
エステルは瞳に涙すら浮かべていた。
「……ちっ、違うんだっ! 僕は異世界より召喚された、本当の勇者だっ! 本物だっ! 僕はあの女神によって、この世界に召喚されたんだっ! 勇者としてっ! 嘘なんてついているもんかっ!」
僕は必死に抗弁する。だが、もはや聞く耳を持たないようだった。
「……詭弁を並べるのもいい加減にしてください。あなたには失望しました」
「そ……そんな……僕は本当に勇者だっていうのに。た、たまたま、今は不調で本来の力を使えないだけなんだっ! 本調子になればきっと……」
「いつ本調子になるというのです?」
「そ、それはわからないけど……さ。い、いつか……」
「そんなものを待っている程、私の寿命は長くありません。こうしている間にも、魔王軍による危機は世界を脅かしていくのです」
「そ……それも確かにそうだ……この世界には時間は残されていないんだ。だから僕が伝説の勇者として異世界から召喚されたのに……そ、そんなのに、なんでこんな事に」
「もういいです。あなたには何の期待もしていません。エスティーゼ王国より授けられた、伝説の剣を私にください」
「え? で、でもこれは僕が貰った剣で」
「どうせ、装備もできないんでしょう」
「は、はい……なんかすみません」
僕は渋々、『勇者の剣』をエステルに渡した。
「で、でも、これからどうするんだ?」
「この剣を持って本当の勇者様を探します」
「だ、だから、本当の勇者は僕なんだってばっ!」
「あなたの虚言に付き合っている程、私も暇ではありませんっ!」
剣聖エステルが僕の元を去っていった。
「く、くそっ! なんでこんな事にっ! あのクソ女神めっ! 僕は伝説の勇者として異世界ユグドラシルに召喚されたんじゃないのかっ! チートスキルで楽々異世界ライフじゃないのかっ! 僕を騙しやがってっ!」
僕は嘆いた。
ドン!
そして地面に殴り掛かる。そんな事をしても拳が痛いだけなのだが、八つ当たりをしなければならない程に、僕には鬱憤が溜まっていたのだ。
――その時。僕の目の前に声が聞こえてきた。聞き覚えがある声が。
「誰がクソ女神よっ! 誰がっ!」
次元の裂け目が割れる。
「き、君は……あの時の」
そう、僕を異世界に召喚したあの女神が、再び僕の目の前に姿を現したのだ。
「なぜなのです?」
エステルが疑問を投げかける。
「……何がだ?」
「伝説の勇者は王国エスティーゼから伝説の剣を授けられると聞いております……。それなのに、なぜ鉄の剣などを装備しているのですか」
「そんな事、僕に聞かれてもわからないよ……なぜだかわからないけど、装備できないんだ」
「装備できない?」
「それより、僕の力を見たいんだろ! でりゃあああああああああああああああああああ!」
僕は、出鱈目にエステルに斬りかかる。運動神経は抜群に良い方だったけど、所詮は素人のものだ。技術が伴っていない、雑な攻撃は剣聖である彼女が捌くのは実に簡単なものであった。
「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
避けられた。勢い余っていた僕は無様にも転がり落ちる。
「ふざけているのですか」
剣で受け止めるまでもなく、余裕をもって彼女には避けられてしまったのだ。
「ふ、ふざけてなんてない! 僕は真剣だ!」
「あなたは私を騙していたのですか……私は異世界より召喚される勇者に仕えるべく、懸命にその剣の技を磨いてきました……それなのに、そんな私を騙すなんて、あんまりではないですか」
エステルは瞳に涙すら浮かべていた。
「……ちっ、違うんだっ! 僕は異世界より召喚された、本当の勇者だっ! 本物だっ! 僕はあの女神によって、この世界に召喚されたんだっ! 勇者としてっ! 嘘なんてついているもんかっ!」
僕は必死に抗弁する。だが、もはや聞く耳を持たないようだった。
「……詭弁を並べるのもいい加減にしてください。あなたには失望しました」
「そ……そんな……僕は本当に勇者だっていうのに。た、たまたま、今は不調で本来の力を使えないだけなんだっ! 本調子になればきっと……」
「いつ本調子になるというのです?」
「そ、それはわからないけど……さ。い、いつか……」
「そんなものを待っている程、私の寿命は長くありません。こうしている間にも、魔王軍による危機は世界を脅かしていくのです」
「そ……それも確かにそうだ……この世界には時間は残されていないんだ。だから僕が伝説の勇者として異世界から召喚されたのに……そ、そんなのに、なんでこんな事に」
「もういいです。あなたには何の期待もしていません。エスティーゼ王国より授けられた、伝説の剣を私にください」
「え? で、でもこれは僕が貰った剣で」
「どうせ、装備もできないんでしょう」
「は、はい……なんかすみません」
僕は渋々、『勇者の剣』をエステルに渡した。
「で、でも、これからどうするんだ?」
「この剣を持って本当の勇者様を探します」
「だ、だから、本当の勇者は僕なんだってばっ!」
「あなたの虚言に付き合っている程、私も暇ではありませんっ!」
剣聖エステルが僕の元を去っていった。
「く、くそっ! なんでこんな事にっ! あのクソ女神めっ! 僕は伝説の勇者として異世界ユグドラシルに召喚されたんじゃないのかっ! チートスキルで楽々異世界ライフじゃないのかっ! 僕を騙しやがってっ!」
僕は嘆いた。
ドン!
そして地面に殴り掛かる。そんな事をしても拳が痛いだけなのだが、八つ当たりをしなければならない程に、僕には鬱憤が溜まっていたのだ。
――その時。僕の目の前に声が聞こえてきた。聞き覚えがある声が。
「誰がクソ女神よっ! 誰がっ!」
次元の裂け目が割れる。
「き、君は……あの時の」
そう、僕を異世界に召喚したあの女神が、再び僕の目の前に姿を現したのだ。