「はぁ…………掃除だるいなぁ」
俺の名は臼井影人(うすいかげと)。勉強も運動も何もできない。影の薄い、どこにでもいる普通の男子高校生だ。
声を出さなければ誰からも気づかれないような、そんな影の薄い、幸のない男だ。
そんな俺は一人、学校の裏庭を掃除していた。
――そんな時。一人の男子生徒が歩いてきたのだ。
だ、誰だ?
あ、あれは。日向勇人(ひなたはやと)。俺と同じ学年のクラスメイトだ。俺とは対照的に日向は周りからの注目を常に浴び続ける男子生徒だ。
二年生にして、学園の生徒会長を任され、その上、サッカー部ではエース。噂ではプロサッカークラブのスカウトも奴目当てで学園に訪れてきているらしい。
それだけじゃない。奴は勉強の方も優秀なんだ。学園一の頭脳を誇り、テストの順位は常に一位。プロサッカー選手の道に進まず、受験の方に専念すれば東大進学間違いなしと言われている化け物のような天才だ。
当然のように、こいつは恋愛においても圧倒的な勝ち組で、アイドルのように可愛いと噂されている、学園のマドンナと付き合っているという噂だった。
まさしく、奴は人生という物語の主人公だ。そして俺は完全なるモブキャラ。奴にとって、俺は空気のような存在だろう。
完全に視界に移っていない。俺の方に向かって歩いてきているのだが、俺がいる事に気づいている様子が微塵もなかった。
奴が近づいてきた。——と、その時だった。
俺達の足元に、突如、光の魔法陣のようなものが出現した。
「な、なんだこれはっ!」
「う、うそだろ。う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
俺達は、その光の魔法陣のようなものに飲み込まれ、そして意識を失った。
◆
「うっ……ここは……」
「い、一体なんなんだ」
「目を覚ましたようね……勇者、日向勇人」
俺達の目の前には恐ろしく美しい女性だった。人間離れをした美貌をした女性だ。
「あ、あなたは一体……」
「私は女神。あなたは現実世界ではない世界。異世界に勇者として召喚されたのよ」
「……そ、そんな……馬鹿な……。そんな事があるわけ……」
「信じられないでしょう。でも、これは紛れもない事実なの。今、異世界『ユグドラシル』は滅びの危機に陥っているわ。異世界があなたの力を待っているのよ」
「い、異世界が僕の力を……」
「ええ……そうよ。心配しなくても大丈夫。あなたには異世界を救えるだけの特別な力を授けるわ。そう、特別なスキルを与えるの」
「特別なスキル?」
「その特別なスキルさえあれば、あなたは何の心配もなく、異世界での生活を送る事ができるわ。どう、世界を救う勇者として、この召喚を受けて貰えるかしら?」
「……拒否権はあるんですか?」
「勿論ないわ」
……だったらわざわざ聞くなよ、と言ってやりたい。
「だったら仕方ないですね。この日向勇人。滅びゆく異世界の危機を救う為に、勇者として、召喚に応じましょう」
「ふふっ……それでこそ勇者よ。それじゃあ、さっさとスキルを継承させて異世界の方へ旅立って貰いましょうか」
この間、ずっとこの二人の会話が続いている。
「ごほんっ!」
俺はわざとらしく咳払いをした。
「何かしら……今、咳のような音が。って、誰っ! いつからそこにいたのっ!?」
女神は驚いていた。
いつから、って最初からだけど……最初から。
「だ、誰なのよ。勇者勇人。こいつ」
「さ、さあ……どっかで見たような覚えもあるような。どこかですれ違ったかなぁ……」
い、一応、俺はお前のクラスメイトだぞ……。
日向は決してとぼけて言っているのではない。俺の存在なんて、こいつにとってはその程度だってことだ。
「……まあいいわ。この召喚の儀に巻き込まれたら元には戻せないし、仕方ないわね」
な、流された。俺がその勇者召喚に巻き込まれた事を。さらりと、この女神は。
「それじゃあ、説明を始めるわね。まずあなたはLV1から始まるけど、心配しないで。スキルが凄く強いから。HP、MP、攻撃力、防御力、魔力、運の成長適性がSになるスキルが身につけられているの。だから、すぐにあなたは強くなるわ。それに、他にもチート級のスキルを何個も持っているから、何も心配いらないわ」
至れり尽くせりという感じだった。な、なんなんだよそれは。こいつは異世界にいっても圧倒的な強キャラのままなのかよ……。全く、嫌になっちまうぜ。現実っていうのはなんて理不尽なもんなんだ。
「それから、あなたはある王国で目を覚ますの。それから仲間を集めて、最終的には魔王を倒す。流れとしてはそんな感じよ」
そんな感じって……。
「それじゃあ、スキルを継承するわっ! ぽぽいのぽいっと! はい、スキル継承完了!」
女神はステータス画面のようなものを開き、適当にカーソルに指を走らせた。なんというか、雑なスキル継承だった。もっと不思議な力で授けるのかと思っていた。
「異世界『ユグドラシル』の命運はあなたの腕にかかっているわ。勇者勇人。あなたの命運を祈ってるわ」
「は、はい! わ、わかりました! 女神様! 僕、世界を救うために精一杯頑張りますっ!」
空気……完全に俺の存在は空気だった。まあ……いつもの事だけどよ。
真っ暗闇の世界が眩い光を放った。光に飲み込まれていく。そして俺達は再び意識を失うのだった。
起きた次の瞬間に目に入ったのは、ゲームや漫画でしか見た事のないような、王様と王女様。それから何人もの兵士達だった。
こうしてモブキャラの俺は勇者召喚に巻き込まれ、ファンタジー世界に召喚されてしまった、というわけなのである。
俺の名は臼井影人(うすいかげと)。勉強も運動も何もできない。影の薄い、どこにでもいる普通の男子高校生だ。
声を出さなければ誰からも気づかれないような、そんな影の薄い、幸のない男だ。
そんな俺は一人、学校の裏庭を掃除していた。
――そんな時。一人の男子生徒が歩いてきたのだ。
だ、誰だ?
あ、あれは。日向勇人(ひなたはやと)。俺と同じ学年のクラスメイトだ。俺とは対照的に日向は周りからの注目を常に浴び続ける男子生徒だ。
二年生にして、学園の生徒会長を任され、その上、サッカー部ではエース。噂ではプロサッカークラブのスカウトも奴目当てで学園に訪れてきているらしい。
それだけじゃない。奴は勉強の方も優秀なんだ。学園一の頭脳を誇り、テストの順位は常に一位。プロサッカー選手の道に進まず、受験の方に専念すれば東大進学間違いなしと言われている化け物のような天才だ。
当然のように、こいつは恋愛においても圧倒的な勝ち組で、アイドルのように可愛いと噂されている、学園のマドンナと付き合っているという噂だった。
まさしく、奴は人生という物語の主人公だ。そして俺は完全なるモブキャラ。奴にとって、俺は空気のような存在だろう。
完全に視界に移っていない。俺の方に向かって歩いてきているのだが、俺がいる事に気づいている様子が微塵もなかった。
奴が近づいてきた。——と、その時だった。
俺達の足元に、突如、光の魔法陣のようなものが出現した。
「な、なんだこれはっ!」
「う、うそだろ。う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
俺達は、その光の魔法陣のようなものに飲み込まれ、そして意識を失った。
◆
「うっ……ここは……」
「い、一体なんなんだ」
「目を覚ましたようね……勇者、日向勇人」
俺達の目の前には恐ろしく美しい女性だった。人間離れをした美貌をした女性だ。
「あ、あなたは一体……」
「私は女神。あなたは現実世界ではない世界。異世界に勇者として召喚されたのよ」
「……そ、そんな……馬鹿な……。そんな事があるわけ……」
「信じられないでしょう。でも、これは紛れもない事実なの。今、異世界『ユグドラシル』は滅びの危機に陥っているわ。異世界があなたの力を待っているのよ」
「い、異世界が僕の力を……」
「ええ……そうよ。心配しなくても大丈夫。あなたには異世界を救えるだけの特別な力を授けるわ。そう、特別なスキルを与えるの」
「特別なスキル?」
「その特別なスキルさえあれば、あなたは何の心配もなく、異世界での生活を送る事ができるわ。どう、世界を救う勇者として、この召喚を受けて貰えるかしら?」
「……拒否権はあるんですか?」
「勿論ないわ」
……だったらわざわざ聞くなよ、と言ってやりたい。
「だったら仕方ないですね。この日向勇人。滅びゆく異世界の危機を救う為に、勇者として、召喚に応じましょう」
「ふふっ……それでこそ勇者よ。それじゃあ、さっさとスキルを継承させて異世界の方へ旅立って貰いましょうか」
この間、ずっとこの二人の会話が続いている。
「ごほんっ!」
俺はわざとらしく咳払いをした。
「何かしら……今、咳のような音が。って、誰っ! いつからそこにいたのっ!?」
女神は驚いていた。
いつから、って最初からだけど……最初から。
「だ、誰なのよ。勇者勇人。こいつ」
「さ、さあ……どっかで見たような覚えもあるような。どこかですれ違ったかなぁ……」
い、一応、俺はお前のクラスメイトだぞ……。
日向は決してとぼけて言っているのではない。俺の存在なんて、こいつにとってはその程度だってことだ。
「……まあいいわ。この召喚の儀に巻き込まれたら元には戻せないし、仕方ないわね」
な、流された。俺がその勇者召喚に巻き込まれた事を。さらりと、この女神は。
「それじゃあ、説明を始めるわね。まずあなたはLV1から始まるけど、心配しないで。スキルが凄く強いから。HP、MP、攻撃力、防御力、魔力、運の成長適性がSになるスキルが身につけられているの。だから、すぐにあなたは強くなるわ。それに、他にもチート級のスキルを何個も持っているから、何も心配いらないわ」
至れり尽くせりという感じだった。な、なんなんだよそれは。こいつは異世界にいっても圧倒的な強キャラのままなのかよ……。全く、嫌になっちまうぜ。現実っていうのはなんて理不尽なもんなんだ。
「それから、あなたはある王国で目を覚ますの。それから仲間を集めて、最終的には魔王を倒す。流れとしてはそんな感じよ」
そんな感じって……。
「それじゃあ、スキルを継承するわっ! ぽぽいのぽいっと! はい、スキル継承完了!」
女神はステータス画面のようなものを開き、適当にカーソルに指を走らせた。なんというか、雑なスキル継承だった。もっと不思議な力で授けるのかと思っていた。
「異世界『ユグドラシル』の命運はあなたの腕にかかっているわ。勇者勇人。あなたの命運を祈ってるわ」
「は、はい! わ、わかりました! 女神様! 僕、世界を救うために精一杯頑張りますっ!」
空気……完全に俺の存在は空気だった。まあ……いつもの事だけどよ。
真っ暗闇の世界が眩い光を放った。光に飲み込まれていく。そして俺達は再び意識を失うのだった。
起きた次の瞬間に目に入ったのは、ゲームや漫画でしか見た事のないような、王様と王女様。それから何人もの兵士達だった。
こうしてモブキャラの俺は勇者召喚に巻き込まれ、ファンタジー世界に召喚されてしまった、というわけなのである。