昔話をしているうちに、昔の不平不満やジョークを言える程度に回復した聖來を見て、桂太は内心ほっとしていた。
「なんか食べようか。聖來ちゃんおなかすいたでしょ?」
「確かに、オーディション……でダンスしたあと、何も食べてないや。でも、冷蔵庫に今何もないよ。さっき見たでしょ」
オーディション、という言葉を言うのは抵抗があるのか、そこだけ聖來は言葉に詰まった。先ほどホットミルクを作るために開けた冷蔵庫には、ほとんど何も入っていなかった。桂太は思い出したように玄関に落としたコンビニの袋を拾ってくる。
「聖來ちゃんからLINEもらうちょっと前、ちょうど研究会の帰りでコンビニに寄ってたんだ。気分だけでもって、一人で食べようと思って買った」
中には、落としてしまったため少し形の崩れた1人用のブッシュドノエルと、ホットスナックのフライドチキンが入っていた。聖來はそれらを口にする。空腹にはあらがえない。やたらと食が進む。
「美味しい」
「どこにでも売ってるコンビニのフライドチキンと、賞味期限が24日までのクリスマスケーキだよ」
フォークの手が止まる。
「やっぱり、桂ちゃん慰め方に絶妙にデリカシーないよね。女の子慣れしてないでしょ」
「将棋で恋愛どころじゃなかったの、聖來ちゃんが一番よく知ってるじゃん」
全国から地元の天才と呼ばれた将棋少年たちが群雄割拠し、しのぎを削り、やっと入れるのが奨励会である。その過程であまたの棋士の卵の卵が、才能の限界を思い知らされ消えてゆく。奨励会に入ってからの戦いはさらに過酷だ。今までに幾多の棋士を夢見た者たちが夢破れて散っていった。恋だの愛だのにうつつを抜かしている暇はなかった。
「僕の先輩、一昨年、年齢制限で奨励会退会したんだけど、もともと女流棋士目指してた女の人と結婚したんだってさ。今2人とも28歳」
「結婚はできるから安心しろってこと?」
「そうじゃなくて……今、夫婦二人で仲良く趣味で将棋楽しんでるんだって。この間会ったんだけど、今、幸せだって言ってた。だから、2人は夢を諦めさせられたんじゃなくて、別の形で卒業したんだと思ってる」
聖來が少しイラついた口調になる。口下手な桂太は、不器用に言葉を選びながら声を絞り出す。
「聖來ちゃんは、もう歌とダンス、嫌いになっちゃった?」
「わかんない……」
「僕はさ、さっきも言ったけど、楽しそうに歌って踊ってる聖來ちゃんが好きだから、やめちゃったら嫌だなって」
「今はまだ、考える余裕ないや」
「だよね。ごめんね」
「でも、結婚も恋愛もできなくていいから、やっぱりアイドルになりたかったな」
聖來が遠い目をする。その言葉に、桂太は大きなため息をついた。
「聖來ちゃん、恋愛とか結婚とかは興味ない感じ?」
「興味ないわけじゃないけど、アイドルには御法度だからね。一応、今朝までは目指してたんだし、アイドルになれません、じゃあ今からさっそく恋愛するぞって気分にいきなりは切り替えられないよ」
「じゃあ、すごく言いづらいんだけどさ、あの日の続きのやりとり、もう聖來ちゃんは忘れてると思うけど話すね」
桂太が真剣な瞳で語りだす。
「なんか食べようか。聖來ちゃんおなかすいたでしょ?」
「確かに、オーディション……でダンスしたあと、何も食べてないや。でも、冷蔵庫に今何もないよ。さっき見たでしょ」
オーディション、という言葉を言うのは抵抗があるのか、そこだけ聖來は言葉に詰まった。先ほどホットミルクを作るために開けた冷蔵庫には、ほとんど何も入っていなかった。桂太は思い出したように玄関に落としたコンビニの袋を拾ってくる。
「聖來ちゃんからLINEもらうちょっと前、ちょうど研究会の帰りでコンビニに寄ってたんだ。気分だけでもって、一人で食べようと思って買った」
中には、落としてしまったため少し形の崩れた1人用のブッシュドノエルと、ホットスナックのフライドチキンが入っていた。聖來はそれらを口にする。空腹にはあらがえない。やたらと食が進む。
「美味しい」
「どこにでも売ってるコンビニのフライドチキンと、賞味期限が24日までのクリスマスケーキだよ」
フォークの手が止まる。
「やっぱり、桂ちゃん慰め方に絶妙にデリカシーないよね。女の子慣れしてないでしょ」
「将棋で恋愛どころじゃなかったの、聖來ちゃんが一番よく知ってるじゃん」
全国から地元の天才と呼ばれた将棋少年たちが群雄割拠し、しのぎを削り、やっと入れるのが奨励会である。その過程であまたの棋士の卵の卵が、才能の限界を思い知らされ消えてゆく。奨励会に入ってからの戦いはさらに過酷だ。今までに幾多の棋士を夢見た者たちが夢破れて散っていった。恋だの愛だのにうつつを抜かしている暇はなかった。
「僕の先輩、一昨年、年齢制限で奨励会退会したんだけど、もともと女流棋士目指してた女の人と結婚したんだってさ。今2人とも28歳」
「結婚はできるから安心しろってこと?」
「そうじゃなくて……今、夫婦二人で仲良く趣味で将棋楽しんでるんだって。この間会ったんだけど、今、幸せだって言ってた。だから、2人は夢を諦めさせられたんじゃなくて、別の形で卒業したんだと思ってる」
聖來が少しイラついた口調になる。口下手な桂太は、不器用に言葉を選びながら声を絞り出す。
「聖來ちゃんは、もう歌とダンス、嫌いになっちゃった?」
「わかんない……」
「僕はさ、さっきも言ったけど、楽しそうに歌って踊ってる聖來ちゃんが好きだから、やめちゃったら嫌だなって」
「今はまだ、考える余裕ないや」
「だよね。ごめんね」
「でも、結婚も恋愛もできなくていいから、やっぱりアイドルになりたかったな」
聖來が遠い目をする。その言葉に、桂太は大きなため息をついた。
「聖來ちゃん、恋愛とか結婚とかは興味ない感じ?」
「興味ないわけじゃないけど、アイドルには御法度だからね。一応、今朝までは目指してたんだし、アイドルになれません、じゃあ今からさっそく恋愛するぞって気分にいきなりは切り替えられないよ」
「じゃあ、すごく言いづらいんだけどさ、あの日の続きのやりとり、もう聖來ちゃんは忘れてると思うけど話すね」
桂太が真剣な瞳で語りだす。



