「毎年、大嫌いな誕生日になるたび思ってた。ネバーランドに行きたいって、これ以上大人になりたくないって」
「僕もだよ。どっちかの誕生日一緒に過ごしたのって、いつぶりだろうね。昔はプレゼントお互いに渡しあってたのに。現実から逃げたくて、なんかその日はお互い避けてたよね」
「ほんっと、道歩いててクリスマスソングが聞こえてきちゃうのも嫌だった。こんな日に生まれるとさ、世間がクリスマスムードなだけで誕生日実感しちゃうし」
「分かるよ。でも、こんな時期だと聖來ちゃんは僕よりずっと辛かったよね。本当に頑張ってたと思う」

 いつまでも叶わない夢を追い続けた結果、親にも見放された聖來の唯一の理解者。彼もまた、夢へのタイムリミットの中戦っていた。時間というあらがえない敵と戦う同志を気遣い、お互いにまったくめでたくない誕生日を祝うことはなくなった。

「将棋のプロになるための年齢制限って……」
「26だよ。だから、来期が僕の卒業期限」
「切実な割には、私が中1の誕生日にあげたブックカバー使ってるんだ。嫌にならないの?」

 たったいま夢破れた者と夢の期限に猶予がほとんどない者。夢の話題が段々と気まずくなってくる。話題をそらすようにカバンからはみ出た書籍を指さしたが、いまいちそらしきれない。

「誕生日は嫌だけど、聖來ちゃんからのプレゼントは嬉しかったから。聖來ちゃんプレゼントのセンスありすぎだよ。12年ずっと使ってる」
「逆に、桂ちゃんはセンスなかったよね」

 聖來は立ち上がり、未開封だった段ボールを開ける。そこには、小学生の時に桂太がくれた誕生日プレゼントたちが入っていた。クリスマスソングのオルゴール、光るクリスマスツリーをかたどったランプ、光るスノードーム、クリスマスカラーの玩具のティアラ、緑と赤のリボンの飾りのついた玩具のマイク。見事にクリスマス仕様である。

「誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント1個にまとめるとかないから!」
「えっ、ダメなの?」
「ほんとに悪手中の悪手だから」
「うわぁ……その言葉は奨励会員の心に刺さるよ。というか、聖來ちゃんがクリスマス嫌いになったの僕のせいじゃん。ほんと、ごめん」
「ほんっとに、私以外の女の子だったら一発で桂ちゃん嫌われるよ。将棋で言うなら二歩だよ。重ねるのはホントにダメ」
「僕、聖來ちゃん以外の女の子にプレゼント渡したことないけどね」

 まくしたてる聖來に対して、桂太はぼそっとつぶやいた。