「桂ちゃん……手、痛い」

 聖來の一言に桂太は我に返った。貸したコートははだけて、ミニスカートからは太ももがあらわになっていて目のやり場に困る。顔目元のメイクこそ涙で崩れているが、アイドルを目指していただけあって聖來は美人である。そんな女性の手に触れている自分に気づき、慌てて手を離す。

「うわわっ、ごめん!その、変なつもりじゃなくて……」

 あまりにも慌てふためく桂太を聖來はフォローする。桂太が自分のために本気で怒ってくれたということに少なからず聖來の心は救われていた。

「大丈夫、分かってるから」
「ごめん、ほんとに」

 桂太は自分が何に対して謝っているのか自分でも分かっていない。聖來にアイドルを目指すきっかけを与えたことに対してなのか、付き合ってもいない成人女性の肌に触れたことなのか。

「もう20年も前だよ。桂ちゃん、そんな昔のことよく覚えてたね」
「うん、忘れるわけないよ。これでも記憶力には自信あるし」

 その瞬間、壁のアナログ時計が0時を指した。近所か隣の部屋でクリスマスパーティーをやっているのか、クリスマスの鐘らしきシャンシャンという音がかすかに聞こえてくる。

「あーあ、25歳になっちゃった。なんでこうなっちゃったんだろうね……」

 25歳になった聖來は自嘲気味に笑った。