「厳しいんだね、年齢制限」
「クラウディアプロモーションは業界で1番緩いよ。ほかは15歳とか18歳とか、どんなに上でも20歳」
「そうなんだ……将棋より厳しいね」
「あははは、笑っちゃうでしょ。私の今までの人生、ぜーんぶ無駄でした!恋も遊びも我慢してきたのも、親にいつまで夢見てるんだ、そんなの子供のうちに卒業しろって言われて、家飛び出して、レッスン代稼ぐためにアルバイトしながらボロアパート生活続けてきたのも、何も意味なかった。学校のみんなに可愛いとか歌うまいとかちょっと言われただけで勘違いして、舞い上がって、バカすぎるでしょ。その辺のどこにでもいるような普通の女の子だったんだよ!才能ないくせに夢なんて見なきゃよかった!」

 聖來が震える声で無理やり作り笑いを浮かべながら自嘲する。

「そんなことない。聖來ちゃんが小学校上がる前からずっと頑張ってたの知ってる。だから、無駄なんかじゃないよ」
「無駄だったんだよ!」

 聖來が泣きながら声を張り上げる。

「アイドルの原石の子を何千人も見てきた審査員の人に言われた!それでよくアイドルになろうと思ったねって!君は24歳のババアだけど、14歳だったとしても絶対に合格しないって!向いてないって10年、いや20年前に気づかなかったの?って!」

 今日のオーディションで薄笑いを浮かべた審査員たちに言われた暴言を泣きながら復唱する。自棄を起こした聖來は募集要項と応募用紙をビリビリに破いた。夢の残骸は、雪のように部屋の中を舞って散らばった。

 過呼吸にも近い聖來の呼吸音と、壁にかかったアナログ時計の音が部屋に響く。

「あと15分で12時。そしたら、女の子の魔法が解けちゃう。シンデレラは12時に魔法が解けるまでは華やかな世界にいられたけど、私はお城に足を踏み入れることもできなかったな」
「終わりじゃないよ」
「終わりだよ。女の子は25歳になったら終わり。よく言うじゃん、クリスマスケーキって。24日まではありがたがるけど、25日になったら誰も見向きもしない。アイドルの卵は今日で賞味期限切れ」
「それは結婚の話で、女の子の価値が年齢だけで決まるわけがないよ。ていうか、今の平均初婚年齢って確か30歳くらいだし、今時そんな時代遅れなこと言ってる人なんていないよ。時代に乗り遅れたおじさんの言うこと真に受けちゃダメだって」

 感情的な聖來を、桂太は論理的に諭す。

「でも、女の子を品定めするのは、いつだっておじさんなんだよ。今日、私の人生全部を否定したプロデューサーさんみたいにね」

 聖來の頬を涙が伝う。力尽きたように壁にもたれて呟いた。

「もう疲れた。夢を追いかける女の子のままで死にたい」