お互いに相手が忘れていると思っていた、あの日小さな手で交わした約束。
「好きな男の子を応援したい」
「好きな女の子に誇れる自分になりたい」
 始まりはそんな小さな夢だった。小さな夢は壮大な夢になり、それに人生を懸けたがゆえに、デートやら告白やらにうつつを抜かしている余裕がなくなった。それぞれの夢に向けてストイックに生きていくうちに、二人はすれ違う。きっと相手はもう約束なんて覚えていない、自分のことなどもう好きではないのだと。

「ごめんね、アイドルになれなくて、指切りしたのに約束守れなくて」
「聖來ちゃんは、ずっと僕のアイドルだったよ!」

 女性の前ではいつもおどおどしてしまう桂太がはっきりと自信を持って言った。

「文化祭とか新歓で踊ってる聖來ちゃんも、林間学校のバスのカラオケで歌ってる聖來ちゃんも、僕にとっては紛れもなくアイドルだった。あと、校庭とか近所の公園で練習してるのもこっそり見てたし、聖來ちゃんが頑張ってるから僕も頑張ろうってエールになってた」
「ええ!?嘘?見てたの?」

 聖來が顔を真っ赤にして驚く。

「だから、聖來ちゃんは約束を破ってなんかいない。だから、今度は僕が約束を守る番。その前に、僕の一生のお願い聞いてほしいんだけど、いいかな?」

 桂太が深呼吸をする。

「年明けすぐ大一番の勝負があるんだ。対局相手は、一番の強敵」

 それを聞いて聖來が息をのんだ。

「だから、聖來ちゃんに勇気をもらいたい。僕だけのために、ライブしてくれないかな?やっぱり、僕のアイドルのライブは特等席で見たいよ」
「ええええっ?そんな大事な役目、私に?」
「聖來ちゃんは今までもこれからもずっと、世界一可愛いアイドルだから」

 お願いと両手を合わせて桂太が頼む。今まで、聖來が桂太を頼ることはあっても、桂太から聖來にお願いすることはなかった。その桂太が、いつになく積極的にお願いをしている。夜中に呼び出しておいて、聞かないわけにはいかないだろう。

「桂ちゃんが推してくれるなら、私、今だけアイドルになれる気がする」
「うん、一生推し続けるよ」