狭いアパートの部屋の空気が張り詰める。夜が深くなり、外や隣の部屋の喧騒はいつの間にか静かになっている。アナログ時計の音だけが響いている。

「僕はまだ夢を叶えられてないけど、あの時からずっと聖來ちゃんが好きだよ。聖來ちゃんがどんなに変わっても全部忘れちゃっても、僕が聖來ちゃんに誇れる自分になったら結婚したいって気持ちは、今もずっと変わらない」

 桂太は真剣な目で聖來の手を握る。

「あのさ、桂ちゃん……」
「あっ、ごめん」

 しかし、聖來が話を切り出すと、慌てて手を離す。その拍子にずれた眼鏡を両手で直した。

「桂ちゃん、将棋は強いのに、今回の読みはめちゃくちゃ間違ってるよ」

 気持ち悪いとばっさり振られるのではないかとビクビクする桂太。しかし、聖來は段ボールから玩具のティアラを取り出して頭につける。

「忘れてたら、桂ちゃんからのプレゼント後生大事にとっておいたりなんかしないよ」

 見たくないはずの、大嫌いなクリスマスを嫌でも想起させる品々。それでも、実家を飛び出したときこれだけはと持ってきた。

 心から信頼できる人にしか弱音なんて吐けない。この家には桂太以外の人間をあげたことがない。好きでもない男の子に手作りのブックカバーなんて渡さない。

「桂ちゃん頭いいんだから分かってくれるでしょ?」