駅から徒歩15分、オートロックなし、築30年。何かと物騒なこのご時勢に24歳の女性が住むのは防犯上やや心もとないアパートで、聖來は一人暮らしをしている。窓や壁は薄く、冬は寒いうえに、外や隣の音がうるさい。狭いワンルームの壁には、古びたアイドルのポスター。詰めればギリギリ2人で食事できる程度の小さなテーブルには写真立てが置かれていたが、倒れて写真は見えない。いつから倒れたままになっているのか分からないほどに埃をかぶっていた。部屋の片隅には小さな引っ越し用段ボール箱。「大切なもの」とマジックで書かれているのとは裏腹に、こちらも埃をかぶり、引っ越ししてからは1度も開封していない。
12月24日午後22時。聖來は帰宅して電気もつけず、鍵もかけず、可愛さ重視の薄手のコートとブーツを無造作に脱ぎ捨てるなり、玄関にへたりこんだ。もっていたスマホがカンッと音を立てて床に落ちる。LINEの画面には「桂ちゃん」の名前と将棋の桂馬の駒のアイコン。そして、聖來が直前に送信した「25歳になりたくない」「死にたい」の4文字が真っ暗な部屋の中ブルーライトを放っていた。
23時前、ドタドタとボロアパートの廊下の階段を駆け上がる音がする。無用心に開けっ放しにしていたドアから、スーツの上にコートを羽織り、黒縁の眼鏡をかけた男が入ってくる。男はここまで全力疾走してきたので肩で息をして、スーツもコート眼鏡もすべてが乱れている。部屋が暗かったので、男は電気をつける。寒い部屋の冷たいフローリングの上にへたりこんだまま動かない聖來は、肩を出したトップスにミニスカートと凍えそうな服装だ。聖來の姿に慌てるあまり、右手に持っていたコンビニの袋と、左手に持っていたカバンを両方ともドサっと落とした。カバンが床に落ちた拍子に、将棋の本が数冊はみ出した。1冊はところどころ縫い目が不格好な布製のブックカバーがかかっていた。
「聖來ちゃん!ごめんね、遅くなって。研究会の場所がここから遠くて。大丈夫?どうしたの?」
「桂ちゃん……」
うつむいたまま虚ろな目をしていた聖來は、顔を上げて男を見るなり泣き出した。
「終わった。あたしの人生全部無駄だった……」
12月24日午後22時。聖來は帰宅して電気もつけず、鍵もかけず、可愛さ重視の薄手のコートとブーツを無造作に脱ぎ捨てるなり、玄関にへたりこんだ。もっていたスマホがカンッと音を立てて床に落ちる。LINEの画面には「桂ちゃん」の名前と将棋の桂馬の駒のアイコン。そして、聖來が直前に送信した「25歳になりたくない」「死にたい」の4文字が真っ暗な部屋の中ブルーライトを放っていた。
23時前、ドタドタとボロアパートの廊下の階段を駆け上がる音がする。無用心に開けっ放しにしていたドアから、スーツの上にコートを羽織り、黒縁の眼鏡をかけた男が入ってくる。男はここまで全力疾走してきたので肩で息をして、スーツもコート眼鏡もすべてが乱れている。部屋が暗かったので、男は電気をつける。寒い部屋の冷たいフローリングの上にへたりこんだまま動かない聖來は、肩を出したトップスにミニスカートと凍えそうな服装だ。聖來の姿に慌てるあまり、右手に持っていたコンビニの袋と、左手に持っていたカバンを両方ともドサっと落とした。カバンが床に落ちた拍子に、将棋の本が数冊はみ出した。1冊はところどころ縫い目が不格好な布製のブックカバーがかかっていた。
「聖來ちゃん!ごめんね、遅くなって。研究会の場所がここから遠くて。大丈夫?どうしたの?」
「桂ちゃん……」
うつむいたまま虚ろな目をしていた聖來は、顔を上げて男を見るなり泣き出した。
「終わった。あたしの人生全部無駄だった……」



