瀬川は最後に笑えと言った。
だから涙を拭いて、バスに乗る瀬川を見送る。


「じゃあまた」
「うん、また」


大層な別れの言葉なんていらない。
多分、直ぐに会うことになるだろうから。


瀬川を乗せたバスは、ゆっくりと速度をあげ、高架下を抜けていく。
だんだん小さくなって景色に紛れてしまっても、私はずっと瀬川の姿を目に焼き付けていた。


道の先に光る空は、いつか瀬川越しに眺めた窓の外と同じ色をしている。
私は目蓋を閉じ、その景色に記憶を重ねた。
瀬川と過ごした最後の一ヶ月を、指先でなぞって思い出すように。


どこかから、瀬川の歌っていたラブソングが聴こえていた。


──安っぽい歌だから歌えんだよ。


もうきっと、きっとあのラブソングは歌えない。