瀬川が振り返った。
白い息が、瀬川の輪郭を暈す。


「私、ちゃんと大切だった。瀬川と過ごした時間も、瀬川のことも。思い出すだけで、もう大丈夫だって思えるくらい」


何よりも、君との日々が支えだった。
私の世界を、君が彩ってくれた。
揺れる息を吸って、私はもう一度その名を呼ぶ。


「瀬川、合格おめでとう」


いつか、遠い昔を思い出す時、忘れられない季節に瀬川はいる。
必ず、私は瀬川を思い出すのだ。


そして瀬川がくれた言葉を、胸いっぱいに抱きしめるのだろう。
瀬川にとって、私もそうでありたい。
瀬川の心の傍に居たい。


瀬川は、真っ直ぐに私を見つめる。
黄昏と冬を透かした深い瞳と視線が交わって、その目が微かに細められた。