「おいそこ、瀬川と三波。席が後ろだと思って遊んでんな。前固定にすんぞ」


黒板の前に立つ先生が、半ば呆れたように私たちに注意を飛ばす。
高校生にもなって、とか、無駄なことで怒らすな、とか、そういう色が滲んでいる気がした。


私は少しだけ顎を引いて反省の態度をとると、机に視線を落とし、問題を解くふりをする。
本当はノートの上に乗った消しカスと、それによく似ているらしい私の字が気になっていただけだけど。


「瀬川のせいで怒られた」
「俺はバレないように蹴った。お前が悪い」


低く掠れた声に潜めて言うと、同じような声で返された。
下を向いたままだったから、瀬川がどんな表情をしていたのかは分からない。
けど、大方いつもみたいな馬鹿面をしてるんだろう。そう予想をつけて溜飲を下げる。


想像の中の瀬川は、塩顔だなんだと騒がれている顔を実に愉快に歪めていて、私は思わず喉の奥を鳴らしてしまう。間抜けな顔だ。
これじゃ、女の子たちからグラブジャムンみたいに甘ったるい声で、“梓くん”なんて絶対に呼ばれない。