私はそこから視線を移して、教室へと戻る同級生の波に、()めつ(すが)めつ目を凝らす。
でも、いくら探しても瀬川の姿は見つからなかった。


私は瀬川の連絡先を知らない。
お互いに、知らなくてもグダグダした関係を続けていけると思っていたから。
こんな時になって、目に見える繋がりが欲しいと願っても、神様は我儘を聞き入れてはくれないのだろう。


諦めて教室に戻ろうとした時、ふと見覚えのある男子生徒が視界を横切った。
瀬川とよくつるんでいた生徒だった。
私は慌てて駆け寄り、彼の袖を引く。


「あの、瀬川、知らない?」


そう尋ねると、彼は若干の気まずさを顔に貼り付けて、視線を逸らした。


「いや……」


口篭る彼を、私は訝しげに見上げる。
彼は視線を彷徨わせ、頭を掻き、うーんと唸ると、観念したように口を開いた。


「瀬川に言うなって言われてんだわ」
「え……」
「もし三波さんに聞かれたら、『合格おめでとう、三波』って、伝言だけ伝えてって」