その日から、私は瀬川を避けるようになった。
瀬川は何度か私に話しかける素振りを見せたけど、気づいていないふりをしては、情けなく自嘲した。


倫理の授業も、もう瀬川の方は向かない。向けない。
解きもしないプリントの端に、シャーペンの先を弱く打ち付けた痕が残るだけだ。
窓の外を眺める瀬川の表情を想像してみても、靄がかかってしまったようにそれは途絶えてしまう。


いつも半分だけ私側に投げ出していた、瀬川の足。
瀬川越しに見える空の色。
立てた教科書に潜めた笑い声。
記憶の欠片は、ふとした瞬間に胸を引っ掻く。
そしてそれ程までに、瀬川の存在が私の人生に入り込んでいたのだと、苦く私に知らせるのだ。


放課後の暇潰しも、ぱたりと無くなった。
その頃には周りの友達も受験に受かり始めていて、瀬川の告白がなくとも、元の日常に戻っていたのかもしれないけど。
それを寂しいと思う資格は、私にはもうないと思っている。