I love you
I love you
I love you only


リュックの中の英単語帳にも載っていないような、チープなフレーズが繰り返される。
それを淡々と、ただ、ひとつの言葉も逃さないように歌う瀬川の横顔を眺めながら思う。


あぁこのまま、過ぎ去る季節をそっと抱きしめるような、
いつか思い出して胸がいっぱいになるような、
そんな普通で特別な日々を、
眩むほどの一瞬を、
声を、
表情(かお)を、
優しさを、
壊れないように、
誰にも触れられないように、
大切に箱に仕舞ってしまいたい。
変わらないものとして、(かたど)ってしまいたい。
それはいつかどんなに(くら)い夜の中でも、きっと救いに代わるのだろう。まるでそう、一筋の光のように。


空気の振動が、部屋を飽和していく。
その中で私は、時が記憶を風化させるものだとしても、この一瞬を忘れたくないと強く願った。