街角でよく聞くR&B。
バイト先で流れているアイドルソング。
シンガーソングライターが歌っていたドラマの挿入歌に、よくお母さんが口ずさむ懐メロ。


そろそろ喉が乾いてきたなというところで、入れた覚えのない曲が流れた。


「……意外。バラード歌うんだ」
「たまたま」


マイクを手にした瀬川が選曲したのは、何年か前に流行ったラブソングだった。
全英語詩だったけど、愛してるとか忘れないとか、淡い恋心を歌っていたような気がする。
瀬川が歌うには甘すぎて、私が歌うには繊細な曲。


「好きなの?」
「別に、好きではないけど」
「へぇ」
「……安っぽいって顔すんな。安っぽい歌だから歌えんだよ」


そう言った瀬川の瞳には、ミラーボールの鮮やかな光と、その光に照らされた私の姿が映っていた。

前奏が終わり、瀬川の目が逸らされる。
薄い唇が開かれて息が吸われた。


紡がれた似合わない柔らかなメロディー、上下する喉仏、一音目が掠れる歌い方。
微かに入る息継ぎの音が、私は不覚にも心地よいと思ってしまった。