「字ぃちっさ。見えてんのそれ」


金曜7限、倫理の時間。
隣から降りかかった不躾な声に、私は思い切り顔を顰めた。


「は?」
「消しカス丸めたみたいな字」


瀬川は斜めに腰かけた椅子から、顎を軽く持ち上げて私のノートを示す。


その緩く弧を描く唇が軽率にイラついて、私は瀬川を睨めつけながら、腕でノートを隠した。
問題を解いていた最中だったけど、これ以上瀬川の無遠慮な目に晒したくない。多分腐る。


「瀬川だって、ミミズが這ったみたいな字」
「きも」
「あんたの字でしょ」
「例えがきもい」


瀬川はそう言って、だらし無く投げ出した足で私の椅子を蹴った。


カン。


シャーペンを走らせる音に混じって、爪先のゴムが金属にぶつかる鈍い音が鳴る。
と同時に、びりびりとした振動が腰を伝った。


微かに瀬川から離れた椅子は、床の埃の上に軌跡を残し、そんなに強く蹴られていないはずなのに、私の体は慣性の法則に従う。
それがまた憎らしくて、私は瀬川の足の間から椅子を蹴り返してやった。


カン。


先程より幾らか軽い音が耳朶を打つ。