次のページもその次も、写っているのは私ばかりだった。
 けれど、その写真のどれも私はレンズの方を向いていない。

 当たり前だ。私はこの写真を撮られた記憶が全く無いのだ。

「これ、いつ撮ったの?」
「色々……。
大体気が付いたらシャッター切ってたから」

 所在なさげに頭をかきながら高藤は言った。

「森川を見て無いと、俺は駄目なのかもしれない」
「……日南さんは?」
「お前はいつの話をしてるんだ。
とっくに別れてるよ」

 アルバムをめくると、花壇の花に水を上げている写真が見えた。
 良くこんなところ気が付いたなと思う。

「声位かけてくれればいいのに」
「だってあの時、お前怒ってただろ」

 あの時がいつの事を言っているのかすぐに分かった。

「ゴメン。高藤の事が好きだから酷い態度をとっちゃって」

 言うつもりの無かった言葉がするりと出た。
 それと一緒に、涙もじわじわと溢れる。

「なんとなくで人と付き合った俺も悪いから。
それから、俺もお前の事好きだ」

 いよいよ涙がこぼれた。
 そっと涙を拭われて、それから。

「写真撮ってもいいか?」
「バカ……」

 泣き笑い顔の私を見て、高藤はカメラを構えて双眸を下げた。

* * *

 卒業式。その日はぬけるような青空だった。
 こんな日なのに、というかこんな日だからこそだろうか。高藤はカメラを提げながら、あちらこちらで請われては写真を撮っていた。
 三年間変わらない高藤の姿に少しだけ安心する。
 そして、私のところに駆け寄ってきて私の頭をそっと撫でて「卒業おめでとう」と言って笑う。
 そうやって変わった二人の関係をうれしく思う。
「お互いに、おめでとうよね」
 私がそう言うと「森川は本当に素直じゃない」と言って高藤が笑った。
 けど、それは、馬鹿にする感じじゃなくて、すごく優しい感じで、私が「悪い?」と返すと高藤は「全然」と答えた。

「高校生活最後の一枚は森川を撮るって決めてたんだ」

 まるで当たり前のことを言うみたいに高藤はそう言った。

「何それ」

 私は少し泣きそうになってしまって、まともな笑顔が作れそうにない。
 式典の後でよかった。
 卒業式の最中ずっとこんな泣くのを我慢したみたいな顔をしないでいい。

「笑って?」

 高藤がいう。
 私はなんとか最高の笑顔になるように高藤に微笑んだ。
 だけどきっと多分その表情はあまり上手くできてなくて。でも高藤は目を細めてそれからカメラのレンズをこちらに向けた。