だから、高藤の事を良く知っている人間は皆、高藤と日南さんは付き合っているのだと思っていた。
 私も少しだけそうじゃないかと思った。
 あんまり、思いたくは無かったけど。

 涙は、あまり出なかった。
 最初から無理だと思っていたからかもしれない。

 小さい頃は仲が良かったけれど、所詮は幼馴染だ。今は時々帰りが一緒になった時に少し話す位だった。

* * *

「ああ、そう言えば、日南と付き合うことになった」

 帰り道、テスト勉強用にノートをコピーさせてという位の気軽さで高藤は私に言った。
 がつんと後頭部を殴られた様な衝撃。
 それから、今までは付き合って無かったんだという気持ち。付き合っていなくてアレだったという事は、付き合いだしたらもっと親密になるということだ。


「へえ」

 声は酷く震えていて、自分でも馬鹿みたいだった。
 日南さんはかわいい。誰だって付き合うならあんなかわいい子が良いに違いない。

 なのに、喉の奥はぎりぎりと痛い気がするし上手く息ができている気がしない。

「じゃあ、こうやってもう話せないね」

 相変わらず声は震えたままだった。

「なんで?」

 何を言われているか分からないといった様子で高藤は聞く。
 だって、日南さんと付き合ってるのに他の女子と仲良く話すのは可笑しい。
「なんでって、日南さんと付き合うなら彼女を優先しないと」
「なんだよそれ、女ってめんどくせーのな」

 高藤はハハっと軽い笑い声を上げながら言った。

「なによそれ」

 私がどんな気持ちで、日南さんとそれから高藤を思って話しているかも知らないでその言い草はない。
 少なくとも私は好きな人が別の女子と話していたら、嫌な気分になる。

「なに本気で怒ってるんだよ。
別に俺が誰と付き合ってもなにも変わらないだろ」

 その言葉を聞いて、高藤の中に私の事を好きになる可能性がまるでない事にようやく気が付く。
 やばい。泣きそうだ。

「変わるに決まってるでしょ!
そんな事も分からラないなんて、高藤なんか知らないっ!」

 さすがに失恋して泣いた姿を見せるのは嫌で、馬鹿みたいなことを言い捨てて走って逃げてしまった。