彼がその場に姿を見せた途端、空気が変わった。それまでの賑やかさが潮が引くかのように静まり返り、代わりに華やいだ囁き声が満ちる。

美斗(はると)様」
「美斗様よ」
「相変わらず素敵なお姿…」

熱のこもった、うっとりとした眼差しで彼を見詰める女性達。ある者はドレス、またある者は振袖で着飾った令嬢達は、まるで蝶のように彼の周りに集った。

「ごきげんよう。美斗様」
「美斗様。いい夜ですね」
「わたくしとお話し致しましょう。美斗様」
「美斗様。お時間ありますかしら?是非わたくしと…」

笑顔の令嬢達に対し、熱も無ければ何の感情もこもらない目で彼は女性達を見回し、ふっと視線を逸らした。