「はい。おしまい」
「お姉ちゃん。こっちも終わったぜ」

祖母と伯母の前にスマートフォンを放り出す彼女に、片手を挙げて瑤太は声をかけた。彼女は「ありがとう」と瑤太に親指を立ててみせる。呆然とする瓊子と、未だ痛みに呻き畳に伏す璃子を、彼女は無感情に見下ろした。

「そういう訳で、もしも今後、葬式だとか用事がある場合、必ず私を通してもらう事になるから。お母さんと瑤太に連絡しようとしても無駄だよ。私の連絡先しか残してないから。つまり窓口は私ね。――さて、お母さんも瑤太も、荷造りはきちんとしてあるよね?」

祖母と伯母の事を忘れたように、彼女は母と弟に呼びかけた。先述の通り、引っ越しにあたって重量がある荷物の搬出は、式神にこっそりやらせてはいた。だが必要最低限の物は、自分達の手で纏める必要があったのである。

「まあ忘れ物をしたとしても、式神に取ってこさせるだけだけど。さあ行こう。もうここにいなくていい。いざ新天地だ」

彼女は家族を促し立ち上がる。弓弦がいち早く動き、次期当主とその伴侶一家の為に襖を開けた。客間の出入り口で、彼女達親子は室内を振り返る。

「お世話になりました」
「どうもお世話になりました」

瓊子達に頭を下げる母に倣い、双子も揃って頭を下げる。美斗は優雅に、弓弦は慇懃に一礼して、襖を閉めた。室内には、倒れ伏す璃子とへたりこむ瓊子のみが残された。