現場に到着した時、全てが終わっていた。瘴気の残滓を祓うかのように光の槍を一振りした若い娘が、スマートフォンを耳元に当てている。

「社長。お忙しい中申し訳ありません。ごみ掃除に手間取りました」
『司さん!?大丈夫なの!?』
「はい」

電話口の『社長』の声に、彼女は周囲を見渡した。

「死傷者はいません。あー…逃げる時に転んだ人がいるくらいです。幸いかな、正規の部隊も到着しました。ここから先は部隊に任せ、私は社へ帰還します」
『ええと、いいのよ?そのまま直帰しても』
「いえ。まだ定時までは時間がありますので。解いていないロジックもありますし、通常業務へ戻ります」
『そう?気を付けてね』
「はい。お疲れ様です。一旦失礼します」

言って彼女は電話を切ってスマートフォンと光の槍――今や万年筆に戻ったそれをしまうと、部隊に「お疲れ様です」と一礼した。隊員達も「お疲れ様です」と敬礼する。

「妖魔は制圧しました。明らかに害意を持っていたタイプですので、滅ぼした方向です。周囲の建造物に被害が及ばないようにしましたし、瘴気も祓いましたが、皆さんでご確認をお願い致します」
「いつもすみません」

隊長に対し、彼女は「いえ」と首を横に振った。

「たまたま私が近くにいただけですので。こちらこそ、いつも私が好き放題やった後のご対応下さりありがとうございます。では私は失礼します」

言って彼女は再び一礼した。大きく身を屈めると同時に、『伝令神の象徴(タラリア)』を中出力(ミドルレンジ)に切り替え跳躍する。おお、という声が響く中、ビルの外壁を蹴り屋上へ飛び移り、飛ぶように駆けていった。
あっという間に遠ざかり見えなくなる後ろ姿を見送りながら、一番年若い隊員が疑問符を上げた。

「…司女史、何で霊術士の正規部隊に入らないんでしょうね」
「『自分はアイテム作りしかできないから』だそうだ」

部隊員に指示を出しながら答える隊長に、やはり年若い隊員は首を傾げる。

「あれだけの物を作れるなら、技術畑でも十分やっていけるのに」
「『それができる優秀な人がやればいい。一般の人の力になりたい』が、司嬢の方針だよ。あえて一般企業に身を置いている変わった霊術士だけど、そういうのもありだろうさ」

かの隊員は「勿体ないですねえ」とぼやきつつ、自分の本来の役目に戻った。